あの人は今
お願い復刊プリーズというサイトがあんねん。
絶版になった本に投票するサイトでなぁ、投票が多ければ潜在的なファンが多いということになるよな?
潜在的なファンが多いということは、ある程度の売り上げが臨めるということで、出版社側にも再販のメリットがある。
たくさん反響がある、のに。
分かりやすく投票制になっていて、現在の投票数が目に見えて多くても、決して復刊されない本ももちろん存在すんねん。
ま、理由は様々やわ。
単純に、既に執筆業を辞めてしまっていて、作者への連絡がつかないだとか、今はもう別名義で作品を発表していて、当時の作品を黒歴史化しているだとかやな。
その中でも難しいのは、当時連載していた出版社自体が消えていると、ファーストコンタクト先すら分からなくなってしまう。
竹野内ゆういち。
その作者は先の話を全て網羅している。
いや、まぁ、タケのことなんやけども。
漫画家はやめているし、別名義のちくりんでそこそこ成功しているし、当時の漫画連載先は、雑誌社ごと消えてしもてる。
竹野内ゆういちイコールちくりんってことは本人も隠しておらず、聞かれれば肯定しているみたいなんやけど、元がマイナーな漫画家やからな。
コアな漫画ファンの中でも、コアなタケファンでもなけりゃあ繋げへんわ。
そんなやつおらへんやろと思っていたら、いた。
それもめっちゃ有名なVtuberやったから、界隈が少しザワつき初めてんねんな。
復刊プリーズでも、日に日に得票数が伸びてきてるわ。
当時連載していた雑誌は小学生男子向けで、単行本があんまり売れるタイプの雑誌ではなかったし、全巻購入する珍しい子供でも、本を大切に扱うとは限らん。
中古の本屋は、基準以下のボロ本は捨ててしまうから、そもそもこの世にタケの単行本の数が少ない。
連載後期に、評判の良かった絵のファンの為に画集も出したんやけど、まぁ売れんかった。
客層とあってへんから、しゃあないねんけどな。
そっちはもっとレア本になってしまってて、オタク向けの中古屋で見かけた時には2万近い値札が貼られとった。
実家の倉庫に出版社が潰れた時に…えーと、無断…ではないけど、それに近い形で持ち帰ったやつが200冊ぐらい眠ってるから、放流して中古車でも買って、それで旅行でもいったろかな、なんて思いもしたんやが実行はしてへん。
タケが嫌がりそうやし。
そんで界隈が荒れた結果よ。
色んなところから色んな問い合わせが来てんねん。
前の出版社が潰れた時、タケはギリギリ未成年だったから、タケと相談して一旦、ボクが版権を引き継いだからな。
めっちゃめんどい。
何がめんどいって、編集者って仕事上、読者が求めとるなら届けてあげたい気持ちはめっちゃあるのに、タケが嫌がりそうなこと。
めっちゃ機嫌のいい日に頼んだら、なんかノリで首を縦に振らんかな。
…あー、デルタ君に相談してみよか。
あの子、なんかそういうの得意そうやろ。
◆
「あのさータケやん。」
ん?ちょっと今忙しいんだけど。
「ゲームのコントローラーの掃除なんて、この世で一番やる事がない時にするやつだろ。
配信についてだから聞いて聞いて。」
ん。
なに?僕とデルタがカップリングされてる件について?
デルタが肯定に近い回答するからだろ!
許してないからな、僕は。
「そんなんどうでもいいって。
ノリだろ?みんなの。
一緒に住んでんのは事実だし、それで楽しんでくれたら別にいいじゃん。」
断固!
否定させてもらうよ!
「ん、まぁ、好きに否定してくれ。
んでな、これ見て、ダリアちゃんの配信アーカイブ。」
ん?あー、前にスパチャくれた人ね。
…おお、盛況だね。
コメント欄も流れが早過ぎてよく分からないわ。
なんで読めてんだろ。
「な。
ま、俺もそのうちこうなるから、そして借金を返すから。」
はいはい。
「そんでさ、これ見て分かったんだよ…。
俺と人気Vtuberの差。
一目瞭然だったわ。」
トーク力と企画力と、ヒキ、かな。
ガワは負けてないけど。
僕が描いてるから。
むしろ勝ってるけど。
「おん…絵に対するプライドはあんのな。
まぁ、トークとか企画とかは配信の場数がある程度必要だろ?そっちは俺がこれから頑張るけどよ、明らかな違いがあるだろ。」
なんだろ。
…愛嬌?
「愛嬌はむしろ勝ってるわ!
お前、俺はそこらへんの公園で初対面のおばちゃんにカステラ貰う男だぞ!」
なにそれ生前?
「生前。
そんな、曖昧な事じゃなくてさぁ、明確な違いがあるじゃん。
ちょっとパッド持ってきて同時に流すから、違いわかったら言って。
先生が正解か教えてあげるから。」
誰が先生だ。
どっちかといえば僕が先生だろ。
…んー。
はいはい。
分かった。
これだね?
元気。
「だから曖昧なやつじゃねぇって!
いや、ダリアちゃんそんな元気なタイプじゃないし、俺の方が元気だろ!」
デルタは元気っていうか、うるさい。
「えー!
もう正解言うわ!
正解は…」
OP映像が欲しいってことでしょ。
分かるよ。
確かにデルタの配信って、ヌルッと始まるからね。
ダリアさんみたいにOP映像があって、パッと始まる方がヒキが良さそうだ。
「そう!分かってるなら最初からそう言ってくれよぉ。
俺、OP映像が欲しい。」
んー、僕も必要だって思ってはいたんだけどね、無理なんだよ。
「えー、なんで?」
音楽を作れないから。
音楽に合わせて映像を動かした方が綺麗だからさ、絵は工程的に後ろなんだよ。
まず、どんな映像にするかのコンテを作って、音楽を依頼して、それに合わせて絵を作る。
だから絵を描ければ作れる物じゃないんだよね。
OP映像ぐらいのアニメーションなら僕でも作れる。
だけど、音楽だけは無理なんだ。
「じゃあ俺が作るわ。」
え、イケんの?
「タケやんに頼りっぱなしも違うじゃん。
幸い音楽ソフトも入ってるし、やってみる。」
おぉ、マジか。
ちょっと先にコンテ切るから、待ってて。
音楽ソフトの練習とかしといてよ。
「おぉ、ありがとな。
そして出来たものがこちらになります。」
はやっ!
なんだよ、もう作ってあったんだ。
3分クッキングの手法じゃん。
「いや、OPに音楽必要だってくらいは分かるよ。
タケやんの鼻歌、だいぶ音痴…いや、音程が独特だし、音楽の素養無さそうだから作ってみたんだよね。
聞いて聞いて。
結構カッコいいの出来たと思う。
まぁ、OP用だから10秒ぐらいしかないけど。」
おぉ。
それでも僕からしたら凄すぎるわ。
じゃあ失礼して。
あんまり音楽詳しくないからさぁ、良いか悪いの違いなんて…。
◆
タケやん、タケやん、電話。
モーさんだって。
結構掛かって来てるよ。
昨日から、智弁和歌山とまではいかないけど、済美高校くらいは。
もう俺が出ちゃうからね?
あんまり無視すんの心苦しいから。
もしもし?
「タケ。
ちょっと用があるんやけど…。
あれ?もしかしてデルタ君か?
タケは?
もしかして戦闘モード入ってる?」
戦闘モード?
あぁ、確かにそんな感じするわ。
なんかずっと集中して話聞いてないね。
「あー、たまにあんねん。
なんかさぁ、創作意欲が刺激されてやる気出す時が。
漫画家やってる時はよくあったんだけど、今はそれで電話に出ない事はなくなったなぁ。
そもそもあんまり通知確認せんから、何回も掛けないと出ないんやけど。」
そんなんモーさんめっちゃ大変じゃん。
連絡くらいマメに確認するよう言うわ。
「ありがとな、タケはその辺終わってるけど、元々やから。
デルタ君が一緒にいてくれたらなんか安心するわ。
一緒にいる?
一緒にいるでいいよな、死んでても。
丁度よかったわ、デルタ君に内密に相談したい事があんねん。
タケって昔漫画描いてたの知ってる?」
はいはい。
知ってるよ。
名探偵ディーンでしょ。
表紙はカッコいいよね。
部屋に単行本が揃ってて、めっちゃ興味はあるんだけど、電子機器じゃないからさ、俺は触れなくって。
タケやんに頼むと、作者様に一枚ずつめくって貰うって石油王みたいな読み方しか出来ないからさ、まだ読めてないけど。
「それそれ。
復刊と、続編の依頼が来てんのよ。
タケ、やりたそうに見えるかな。」
わかんないわ。
けど、そういう話が来るってことは、誰かが読みたがってんでしょ?
それを真っ直ぐ伝えたら、タケやんは喜ぶと思う。
一緒にいて気づいたんだけどさ、タケやんは真剣なお願いに弱いから。
「そうかぁ。
ま、真剣にお願いするのが筋やな。
分かるわ。
また今度顔出すって伝えといてや。」
はーい。
…モーさん、なんか嬉しそうだったな。
タケやんがどうするかは分からないけど、モーさんがその話始めたら、俺も味方になってやろ。




