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婚約破棄を叫んだ令息の父は後悔する  作者: 紡里


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2/7

うっかりしていた

 眠った気がしない。

 重たい体をなんとか持ち上げる。


 侍従に身支度を調えさせ、朝食に向かった。

 妻も息子もいない。

 一人での食事。


 今までも大して会話をしていたわけではないが、テーブルにぽつりと一人で食べるのは寂しかった。



 まずは息子の婚約者の家へ、訪問のお伺いを出す。

 丁寧に、下手に出た文面を考える。

 息子が馬鹿なことをしなければ、こんなことはしないで済んだのに。

 そう考えると、また腹が立ってきて、ペン先を潰してしまった。

 紙にインクが飛び、書き直しだ。


 内容が内容なだけに、執事に代筆させるわけにはいかない。


 朝一番に出すつもりが、午前のお茶の時間にようやく書き上がった。

 急いで届けるように言いつけ、ほっと一息つく。



 ああ、慰謝料は何を差し出せばいいだろうか。



 使いに出した者が戻ってきた。

「たいそうお怒りで……」と、恐る恐る手紙を差し出された。


 奪うように受け取り、ペーパーナイフで開封する。


「朝一番に連絡が来るものと思い、時間を空けておいた。

 ところが、使者が現れたのは午前のティータイムが終わるころだ。

 詫びに駆けつけてくると思っていた私が間違っていたようだな。


 そちらから我が家を訪ねたいとの申し出を受けたが、娘の心をこれ以上乱すつもりはない。

 よって、直接の面会はお断りする。


 慰謝料の件については、代理人がそちらに伺う。誠意ある対応を期待している。


 また、進めていた事業提携は白紙とする。

 契約条項にある「誠意を欠く行為」に明らかに抵触していると判断した。

 その賠償についても、相応の請求を行うつもりだ。


 いささかの手心も加えるつもりはない。

 覚悟めされよ」


 なんということだ。

 怒りに火を注いでしまったらしい。


 昨日、寝る前に書いておくべきだった。

 あんなに疲れ果てていなければ……! 執事が私の状態に配慮せず、署名など書かせたのが悪い。



 そうだ。愛人の家を売って、慰謝料に充てよう。

 妻が出て行ったのだから、客間に呼んでも文句を言う者はいない。




 事業が中止になるなら、紡績工場と倉庫業者に連絡をしなければ。


 だが、なんと説明すればいい? 

 謝罪を受け入れてもらえるなら、一時停止で済む。

 だが、許されないなら、一刻も早く他の取引相手を探すか、いっそ事業ごと売却するか決断せねば。


 ええい。新しい事業をやろうなどと考えなければ、婚約も必要なかったではないか。

 誰が言い出したんだ。


 投資だけして利益が出ていない状況だ。

 ここで頓挫したら、借金が残るだけではないか。



 そうだ。融資を受けた銀行に相談しに行こう。

 きっと何かいいアイディアを持っているに違いない。この事業が中止になって返済できなくなったら、困るのは銀行も同じだからな。



 銀行の担当者に相談してくるよう、侍従に命じた。

 その答えを持って、今日の午後にでも動かなければ。


 ところが、侍従は三日後の予約を取ってきた。

「融資の件については、使用人ではなくご当主と相談しますとのことです」


 なにを呑気なことを言っているのだ。一日にいくら利息が発生するか考えろ。



 自ら銀行に赴き、担当者を呼ぶように受付で大声を上げた。

 私が貴族であること、重要な顧客であることを説明したが、受付の者は頑固だった。

「面談を確約することはできないが、待つのを止めることはできない」という内容を、回りくどく繰り返す。

 要するに、好きにしろということか。



 イライラしながらソファーで待っていると、顔なじみの貴族が通りかかる。


「え、こんなところにいて大丈夫なんですか?

 侯爵家の夜会で、ご令息がとんでもないことをやったと聞きましたが。

 お詫びに行って、平謝りしているとばかり……もう、侯爵のお許しを得られたのですか?

 すごい早業ですね。さすがだ」



 ああああ! 忘れていた。

 侯爵家の嫡男の嫁が、張り切って王城内の小ホールを借りて開催した夜会。

 格式のある夜会ではないから私は欠席したが、逆に、特別な意気込みを感じた。


 昨日、会場の個室で頭を下げたが、改めて詫びるべきだった。


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