・・・悪気はないから許してね!
「虹ーー?いないのー?」
ストーカーっぽい人がいたことを話すために、ベッドの下やトイレの便座のふたを開けてまで探した。
どこにもいないみたいなので、気長に待つことにしよう。
暇だな、暇すぎる。
おやつも食べ終わっちゃったし、宿題も終わらせたし、今日はテニス部の顧問のおじいちゃん先生がギックリ腰とかで、しばらく大会もないから、約一か月間、部活が停止になったし・・・。
お母さんとお父さんは仕事で、海斗は友達と遊びにいくとか朝言っていたっけ。
気長に待つって言っても、一時間たっても来ないとなると、だんだん待つのにも飽きてくる。
「まだかなー」
ピーンポーン。
やっと来た!
ダッシュで玄関に向かい、ドアを開けた。
「おかえ・・・」
り、を言う前に、私の言葉は止まった。
ドアの前にいたのは、虹ではなく、帰り道につけてきた人だった。
・・・無言でドアを閉めた。
よし!見なかったことにしよう!
ピーンポーン。
現実逃避をしようにも、チャイムの音が邪魔をする。
いつも聞きなれているチャイムの音なのに、今の私には、学校に間に合わなかったときのチャイムの音みたいな、絶望的な音に聞こえるよ・・・。
とはいっても、このまま家にこもっていても、つけてきた人が海斗と鉢合わせしてしまうかもしれないよね。それは困る。
仕方ない、すっごく嫌だけど!行きたくないけど!
海斗の平和のために、お姉ちゃん頑張るよ!
意を決して、近くにあったゴキブリ撃退スプレーを手に持ち、一気にドアを開け、外に出た。
ゴン!
つけてきた人が、おでこをおさえて、
「うぅ・・・」
と、言って、仰向けにひっくり返って気絶した。
「わー!」
やばい!
し、死んでる?
恐る恐るゴキブリ撃退スプレーでつついてみても、ピクリとも動かない。
・・・殺人犯になった!
でも、死んでいないから、殺人犯にはなっていないのか・・・?
とりあえず、よくありそうなドラマとかだと、まず証拠隠滅してるよね!
タオルでもかけておこうかな?
うーん。でも、玄関にタオルがあったら、不自然だよね・・・。
近所の人に見られて、通報され、新聞やテレビに中学二年生の女子、大学生とみられる男性にドアをぶつけ、殺害!とか載って・・・。
最悪な想像をして青ざめていると、塀の上から、低くも高くもない、聞きなれた声がした。
「美音?こんな所で、何してるの?」
どれだけ待ちわびただろうか。今はこの声が、とても嬉しい。
「虹ー!」
涙目で飛びつき、抱き着いた。
「え・・・?」
虹はひたすら戸惑っていたけど、今は許してほしい。ストーカーにあったり、殺人犯になりかけたり(?)と、こんな盛りだくさんな一日を送ったの、私ぐらいだろうから。
「抱きつくのは別にいいんだけど・・・とりあえず、間違って噴射したら嫌だから、手に持っているゴキブリ撃退スプレーを置こうか?」
「あ、はい・・・」
諭すように言われて、私はおずおずとスプレーを下に向けた。
・・・手が滑って噴射してしまい、玄関が大惨事になったのは、とりあえずおいておこう。
悪気はないから、許してね!




