やって来ました、スーパーマーケット
美音が眠りについたので、虹は、床から音をたてないようにそっとベッドの上に飛び乗った。
美音の寝顔をみながら、不思議な家族だったなぁ、と、ドタバタだったのに楽しかった一日を思い出し、ついついにやけてしまう顔をごまかすように、布団に潜り込み、くるりと体を丸めると、虹も眠りについた。
・・・次の日に聞いてみたところ、私のいびきがうるさくて、よく眠れなかったらしい。きっと、疲れてたんだな。そう、別にわたしが毎日いびきをかいて寝ているわけではない。そう願っておこう。
「楽に会いに行こう!」
ちょうど飲んでいた味噌汁を吹き出しそうになった。
吹き出しそうになった・・・というより、ちょっと吹き出した。
「うわ!姉ちゃん汚っ!」
隣の椅子に座っていた海斗が椅子をひいて私から離れた。私は、ゴホゴホとむせながら、虹に抗議した。
「楽って誰?そもそも、今何時だと思ってんの?」
「・・・十二時」
ふてくされたように、むすっとして答えた。
そうなのだ。昨日の夜はしゃぎすぎたからか、いつの間にか家族全員ーもちろん虹もー二度寝や寝坊をして、十二時の現在、朝ごはんという名の、昼ご飯をたべることになっていた。
「それに、せっかくの休みだよ?あ、そうだ。私、虹の生活用品買いに行こうと思っていたんだった。虹も行こうよ」
「行く!」
即答だった。ものにつられるなんて、案外ちょろいな。虹。
早速、食べ終わったので、お母さんからお金をもらい、この町では割とでかいスーパーに向かった。
お財布には、結構な額が入っていた。猫と暮らすのは初めてで、奮発したんだろう。何円かは・・・狙われるのがこわくて、とても言えません。
そんなこんなで、やって来ました。スーパーマーケット。
「大体はここで揃えられると思うけど、どうしても必要な物とか、これだけは譲れないっていうものがここになかったら、ネットで買うから後で言ってね」
スマホを右耳にあてながら言った。スマホがないと、猫に向かってしゃべっている人って思われてしまう。そういう人もいるけど、やっぱり、知らない人がたくさんいる状況で、堂々と猫に話しかける勇気は、私にはない。
ちなみに、ここは犬や猫ならペットの同伴もOKなので、とてもありがたいと、私の町ではかなり人気のスーパーだ。私にとっても、ありがたい。
虹が必要なものや、歯ブラシなどの日用品(虹も歯磨きをするということが発覚して、超驚いた)、とついでにまたたびや猫じゃらし、今日のおやつも買い終わった後。
「あれがない・・・」
虹が、深刻そうに呟いた。
「あれって?」
聞いてみても、虹は難しそうな顔で、唸っているだけだ。
その様子を見て、ひらめいた。
虹は、きっとチュールがほしいんだ!そうかそうか。虹に、チュールがないと悩む、そんな可愛い一面があったとは。ついニヤニヤしてしまう口元を手で隠した。
一方、虹は悩んでいた。
ちょうどいい硬さの枕がない!と。虹は、ちょうどいい硬さの枕がないと、寝起きが最悪、毛はぼさぼさ、寝つきが悪い、のフルコースになって、毎日が地獄になってしまう。
寝ることが好きなので、よく眠れないととても不機嫌になり、まわりにめいわくをかけてしまうのを虹自身も分かっていた。
今日だって、つい美音に八つ当たりをしてしまったのだ。いびきがうるさくて眠れない、と。本当はいびきなんてかいていなかったのに。
なので、僕は反省し、償いとしてあっさり買い物についていくことにした。決して、僕がものにつられたわけじゃないけど。
美音の予想は、全く当たっていなかった。
美音と虹は、思った。こうなったら、虹のために、こっそりチュールを買ってこよう!、僕や美音のためにも、こっそり枕を買ってこよう!
それぞれの思惑は、似ているようで少しずれていた。
「じゃあ、私、欲しいものがあるから、買ってくるね」
「了解」
他の人に聞かれないように、こっそりと返事をして、二人は、これ幸いと、ダッシュで目的の場所へと向かった。2人が目的の場所へとたどり着いた。
美音がチュールを箱買いしようと、レジに並んでいる間、虹は焦っていた。
お金持ってない!
重大なミスに気付き、青ざめた。
虹が焦っている間にも、美音が帰ってくるのは、一時一時と迫ってきている。
ふと、虹は気づいた。別に、枕が欲しいと素直に言えばいいのでは?と。
こそこそする必要ってあったのかな・・・。今まで悩み、焦っていたことにばかばかしくなり、近くにあったいすに寝ころび、美音が何かを買い終わるのを待っていた。
美音がチュールを買い終わり、虹を探していると、椅子のあたりが騒がしい。なにやら人混みができていた。
近付き、人ごみの後ろから背伸びをすると、虹がいすで寝ていた。
「わー!かわいい!」
「どこの子かな?」
どうやら虹のせいで人混みができていたらしい。
「すみません!通してください!すみません!」
私は謝り倒しながら人込みを通り抜け、虹をレジ袋の中へ回収し、逃げるように店をでた。
そのまま家へ帰り、虹を、今日チュールを買うついでに買った猫用ベッドの上にのせてあげた。
ぐっすり寝ていたので、起こすのもかわいそうか、と部屋にもどりかけると、ちょうど虹が起きた。
「・・・おはよう」
あくびをしながら伸びをした。
「結局、買えなかったなぁ」
と虹がぼやいているのを私は聞き逃さなかった。
「ふっふっふっ、わかっているよ。虹が欲しかったのは、チュールだよね。大丈夫!ちゃんと箱買いしてきたから!」
レジ袋から取り出し、デーンと見せると、え?と言って虹はかたまってしまった。
「僕が欲しかったのは、枕だったんだけど・・・」
今度は私がかたまった。チュールが欲しくて、あんなに悩んでいたんじゃないのぉ!?
落ち込んでいると、虹は慌ててフォローした。
「チュール?ってやつもおいしいかもしれないし!それに、気持ちがうれしいし!」
「チュール食べたことないの!?」
驚いて顔をあげると、逆に驚かれた。
「チュールってそんなに有名なの?」
「私のイメージだと、猫が好きなものはチュールって感じなんだけど・・・」
虹がチュールに近づいた。
「一本食べてみていい?」
もちろん、と私はうなずき、パッケージから出して、お皿に入れた。
ぺろっと一口恐る恐るなめてみて、ぱぁっと顔を輝かせてがつがつ食べ始めた。
「うまい!おやつの中で、一番好きかも」
喜んでくれたみたいでよかった。さすがチュール。これで、チュールが無駄になるという事態はさけられた。
・・・ただ、結構気に入ってしまったみたいなので、これからはおやつやご褒美としてあげていきたいと思う。
食べ終えて、口の周りを手で拭っている虹を見て、
「で、虹は何で枕が欲しかったの?」
お皿をかたづけながら聞いた。
「じつは・・・」
虹は、枕がないと寝起きが悪いので、枕がほしかったらしい。
「でも、今は機嫌悪くなくない?」
「たしかに」
虹はハッとして、ベッドにのり、何かに気づいて、納得したようにうなずいた。
「これ、ベッドのはしが枕の代わりになっているみたい。ちょうどいい高さとやわらかさ・・・これぞ、僕の探していた枕・・・」
つぶやいて、また寝てしまった。
ひととおり、虹の生活用品も買えたし、一件落着。
安心したら私も眠くなったきた。近くにあったクッションを枕にして、虹の隣に寝ころんだ。あとのことはお母さんや海斗に任せよう。
いまは、おやすみなさーい。