お父さんの帰宅
その後、大滝家のメッセージグループに、「家族が増えました!虹でーす!」というメッセージと、みんなで何回も取り直した、カメラ目線の虹の写真を送り、お父さんにも同じ説明をした。
ただし、海斗やお母さんとは違い、お父さんはなかなか納得せず、何回も電話がかかってきたので、電話越しに虹と会話をすると、ようやく信じてもらえた。
見た目は猫ということに変わりはないので、お父さんはメロメロになっていて、虹がちょっと引き気味になっていた。頑張れ、虹。どんまい、お父さん。
その日の昼に、虹は人間が食べられるものなら、ほとんど何でも食べられることがわかった。
お母さんに食べられないものがないか聞かれたとき、本人、本猫?が言っていた。私のみたところ、好き嫌いは、今のところなさそうだ。ただ、あついものは苦手らしい。お昼ご飯に出てきた焼きそばも、しばらくして冷ましてから食べていた。
夜になって、車の音がしたので、お父さんが帰ってきたことが分かった。玄関が開いた音がした。玄関から、足音が近づいてくる。虹がごくりと唾をのんだ瞬間、バーンとリビングの扉が開いた。
「たっだいまー!虹はどこだ?」
いい大人なのに、少年のように目をキラキラさせて虹を探し始めた。虹は、冷や汗をかきながらお父さんの前に出た。
「こんにち・・・」
「おー!虹!かわいいなぁ!本当にしゃべるのか?電話越しでしゃべっていたけど、なかなか、かっこかわいい声をしていたじゃないか!」
お父さんが虹の言葉を遮って、虹がたじたじとしている。・・・お父さん、それ、会社だったらセクハラに入るんじゃない?
「はい、しゃべります・・・。すみません・・・」
あーあ。虹が悪い意味で受け取って、どんどんネガティブになっていく。
「お父さんが話を遮るから、虹が落ち込んじゃったじゃん!」
私は、あまりに虹がかわいそうだったので、つい注意してしまった。すると、お父さんがソファーに寝っ転がり、めそめそしだした。
「だってさぁ、美音。これでもお父さん頑張ったんだよ?虹に会うために、仕事を手早く片付けて、満員電車にゆられた後、車に乗って帰ってきたんだよ?なのに、美音に怒られて・・・土曜日も出勤の、結構ブラックな会社で、一生懸命働いているのに・・・(※個人の感想です)」
めそめそしているお父さんは、正直、面倒くさい。
そんな時、名案を思い付いた。これなら、お父さんのめそめそしているのが、なおるかもしれない。
早速、お母さんと海斗と虹にその案をコッソリ教えた。お母さんと海斗は面白そう!とのってくれた。虹は、いやそうにしながらも、最後には折れて、協力してくれた。
そうと決まれば、実行してみよう。
実行の合図として、私が二回、あくびをした。
「わー!手が滑っちゃったー!」
海斗が棒読みで言い、虹に向かってコップに入っていた水をかけた。
「あらー!大変!虹が汚れちゃったー!」
お母さんも海斗と似たり寄ったりな棒読みで言って、大げさに驚いた。お母さん、虹にかけたのは水だから、汚れてはいないと思うよ。と、つっこみたくなったが、ここでわたしがつっこんだら、計画が水の泡になってしまう。
ぐっと我慢した。
「私たちはもうお風呂入ったから、お父さん、虹をいれてあげて。猫用シャンプーが余っているはずだから、それ使ってね」
お父さんは、みるみる明るい表情になり、
「え!いいのか!?」
とルンルンと虹をつかんでお風呂に入っていった。
お風呂の中から、虹の悲鳴が聞こえた気がしないでもないけど、まぁ、気のせいだろう。
しばらくたって、お風呂からでてきた虹とお父さんは裸の付き合いの効果なのか、虹は、お父さんの本名の、剛志と呼ぶ仲になっていた。打ち解けたみたいでよかった、よかった。
謎の達成感を感じながら、海斗とお母さんと私で、健闘を称えあった。
とはいっても、ぶどうジュースを乾杯しただけなんだけど。
無事に虹がうちの家族全員と打ち解けられたので、その後はみんなでバトル系のゲームをした。
虹はしっぽでプレイするという、はんでがあったうえに初めてだったのに、なぜか誰も、一度すら勝てなかった。
夢中になってゲームをしていると、いつの間にか遅くなっていたので、私の部屋に、虹を連れていき、布団に入った。
今度、虹専用の布団でも買いに行くか。猫用シャンプーも買わなきゃなと考えていると、だんだんと瞼が下がってきた。
私の特技は、すぐ眠れることと、回復が早いことなのだ。
もっと起きていたいのに・・・と思いながら、美音は眠りについた。