意外と毒舌?
「いかない」
「いかないんかーい」
・・・ついつっこんじゃったよ。
「ずぼらそう」
・・・素直というか、シンプルな言葉が、一番心に刺さるのだ。特に、この猫はしゃべらなければかわいいのだ。かわいい見た目をして、そんな言葉を言われると、心にささる。それはもう、ぐっさりと。
ずぼらそうって、偏見じゃないか!・・・あっているけども。
内心、かなり落ち込みながら、
「そっかぁ。」
と平然と返した、と思う。若干声が震えていたかもしれないけど。
猫が真ん丸な目をさらにまん丸にして、不思議そうに聞いてきた。
「普通に会話しているけど、どうしてこわがらないの?」
私は、何のことを言っているのかわからず、パチパチと瞬きをし、しばらくして気づいた。そういえば、当たり前みたいになっていたけど、猫ってしゃべらないんだっけ。
「どうやってしゃべっているの?」
と、聞くと、
いまさら?と言いたげな呆れた目をしながらも、答えてくれた。
「簡単に言うと、ふつうの猫じゃないからかな。僕たちみたいな猫は、いろいろなところから生まれるんだ。たとえば、月とか、雲とか。極端な話、世界中、どこにでもいる。ちなみに、僕は虹から生まれたんだよ。」
そこまでの話を聞いて、はぁ?と思った。だけど、噓とは思えなかった。しゃべるねこがいるのなら、ゾンビだろうと、吸血鬼だろうと、いそうだなと思ったから。
それに、目がきれいな虹色だったので、虹から生まれたってことにも納得した。
あと、どうでもいいのだけど、一人称が僕ってことに驚いた。なんとなく、俺を使いそうなかんじがしていたし。そもそも、性別があるのかも知らないけど、独断と偏見でたぶん雄かな?って思っていた。
だんだんと、疑問がわいてきた。そんなに多くいるのなら、どうしてしゃべる猫にあったことがないのだろう。というより、しゃべる猫に気づいた人が、ニュースやネットに載せていないのはなぜだろう。
そんなことを聞くと、またまたあきれながら答えてくれた。
「あのねぇ、しゃべる猫がいるってことがばれたら、大騒ぎでしょ。研究者たちに連れ去られて、解剖とかされちゃうかもでしょ。僕たちはそれをさけるために、こうやってふつうのねこのふりをしたり、ほかのものに化けたりしているわけ。だから、今回は例外。君なら、友達いなそうだし、口もかたそうだから、しゃべってもいいかなって。腹も減っていたしね。」
しれっと馬鹿にされたことに腹を立てつつ、確かに人間の言葉をしゃべらなければ、ふつうの猫に見えると感心しつつ、しゃべる猫たちの運命がかかっているのに、そんな勝手な理由で、私に姿を見せていいのかとあきれてもいた。私がネットに書き込んだら、猫たちが大変な目にあうかもしれないのに。・・・書いても信じてくれるひとがいないか。そもそも、猫以外のものにも化けられるんだ。
「じつは、僕たちについている、鈴を見ることで、普通の猫かどうか見分けることができるんだ。この鈴は僕たちが生まれたときからついていて、特殊なものでできていて、壊れにくく、僕たちではとれない。その上やっかいなことに、僕たちを狙った、密猟者がいるんだ。僕たちの毛皮や瞳の色は人間にとって珍しいし、鈴も価値があるらしいからね。だけど、鈴を誰かにとられたら、だんだんと衰弱していって、やがて死んでしまう。なかなか残酷でしょう?」
と、少し苦笑しながら、そう話した。
「だからね、僕たちはこの鈴がとれても死なない方法を探しているんだ。そして長年探し続けて、ようやく手がかりが見つかった。それはね・・・人間を食べること!」
「ぎゃー!」
我ながら、可愛さのかけらもない悲鳴だったと思う。とりあえず、慌てて逃げようとした。
「・・・じゃなくて、密猟者が持っている、薬を飲めば鈴が取れるらしい。あくまで、うわさだけどね。」
だまされたことによる怒りと、薬を飲めばとれるんだという驚きがごちゃ混ぜになって、どんな反応をすればいいのかわからず、唇を引き結んで目を見開き、鼻の穴を膨らませるという、変な顔になった。そんな私を見て、猫が笑いをこらえながら話した。
「なんで密猟者がそんな薬を持っているかっていうとね。もともとは鈴と僕たちの体を別々に売るために密猟者たちが作った薬だったんだけど、檻の中に入っていた食べ物につられてつかまっていた僕の仲間が、いや、バカって言ったほうがいいのかな、そのバカがたまたま奇跡的にその薬を飲んで脱出できたんだ。噂によればそのバカには鈴がついていなかったらしい。」
笑いを隠せていない。声がところどころ震えている。私がじっとりとした視線を送ると、猫は咳払いをしてごまかした。
「ま、まぁ、そういうことだから、鈴を外すのを手伝ってほしい」
反射的に、うん、いいよ。と言いそうになり慌てて口を抑えた。
猫はわざとらしく、悲しそうな様子でうつむいていた。見た目は猫なので、悲しそうな姿をしていると、かわいさがあり、何とかしてあげたくなる。
ようするに、私はこの様子に弱いのだ。きっと、そのことに気付いているのだろう。猫がニヤリと黒い笑みを浮かべているような気がする。
「じゃあ、仮に私が手伝うとして、何の意味があるの?私が手伝っても、特にできることはないと思うけど・・・。」
私はごく一般的な女子中学生だ。今猫としゃべっているということで、一般的と言っていいのかは分からなくなってきているけど。
「いや、あるよ。僕の聞き込みを手伝ったり、君がふだんいっている中学校で、おかしなことや変な噂がないかを確認してくれたりして欲しい。それだけで、進み具合が全く違う」
なるほど。たしかに聞き込みをするために、猫が人間にしゃべりかけていたら、聞き込みどころではなくなる。
でも、正直言って私にそんなことをする義理はないのである。第一、私だってこう見えても何かと忙しいのだ。そう考えて、ハッと今更だが気づいた。