童貞魔王と第四皇女:その3…次の妃候補はエルフ…え、全権大使!?(5)
「シルフィア…連合の事などどうでもいいのだ…」
「え?なに怒ってるのよ?」
「どうして自らの腹に短剣を突き立てようとしたのだ!!!!」
そう叫んだマクシムの瞳には、零れそうな程の涙が溜められていた。
問われたシルフィアは半眼になり、小さく鼻で笑う。そして足元に転がるコルセットを蹴飛ばしてみせた。コルセットは崩れる事もなく、円筒形のまま床を転がっていく。
「コルセットの中には鉄の骨組みが入ってるし、刺繍とかで布地はガチガチなのよ?こんなクッソ硬いコルセットを女の細腕で貫ける訳ないじゃない。それに狙ったのは腹の中心じゃなくて腰骨。多少は痛いし血が出るけど、死ぬ事はまずないわよ」
シルフィアは短剣を逆手で振り下ろせば、両手で短剣を隠せる事は計算済みだった。さらにその切先なんて遠くにいる重鎮達に見えるはずもない。腹の内部を傷付けぬ様に腰骨を狙うのは、実は娼館時代にこっそり練習していたのだ。それに例えミスをしても、コルセットのお陰で腹の中の物が零れてくる事もないのである。
ようは腹部に短剣が刺さったように思わせ、流血してドレスが汚れれば目的は達成されるのだ。
「女は力じゃ負けるけど、痛みと血には強いのよ?これぐらいの芸当は淑女の嗜みだっつーの」
「…いえ、そんな荒事、淑女の嗜みではありませんが…」
エフィリのツッコミをシルフィアが無視する。
「それに気付いてた?私が短剣を手にして、わざわざあんたの手の届く所まで移動してた事。あんたが止めてくれるって信用してたから実行したの、判る?」
シルフィアの言葉に気が抜けたのか、マクシムは膝から崩れ落ちた。そしてソファに座るシルフィアの膝へと頭を預ける。
「…シルフィア…お願いだ…もう二度と…あんな事はしないでくれ……」
「……あー、しないしない、もうしないから安心なさい」
シルフィアはマクシムの頭を撫でながら約束した。というよりも、この方法に2度目は無いのだ。
シルフィアは娼館時代の先輩にこの交渉術を教わった。彼女曰く『男なんて血を見せれば心配してくれるものよ』だそうで、その言葉通り彼女は良い男性を捕まえることが出来た。しかし繋ぎとめようと2度、3度と流血する度に男性は遠ざかっていき、6度目には失敗して3日間苦しんで死んでしまった。男性は見舞いにも来なかった。
この交渉術の効果は絶大なのだが、2度目以降は『イタいだけの女』になってしまう。乱用すべき交渉術ではないのだ。
「まぁ後は重病詐欺に妊娠詐欺、失踪詐欺と服毒詐欺ぐらいかな…不審者詐欺ってのもあるわよ?」
「…シルフィア…俺の心臓が持ちそうにないだが…」
「安心なさい、あんたが戦争や浮気をしない限りは実行しないから」
「俺が浮気する訳無いだろうッ!」
「…戦争は否定しないのね…ま、王様だから仕方ないか…」
マクシムの安堵の抱擁は、いつしか熱いキスへと変わっていった。
シルフィアは服を脱がされ、露わになったコルセットの赤い跡をマクシムの舌が追随してゆく。
「…ダメ…まだ…湯浴みしてない……」
「…シルフィア…俺を安心させてくれ…受け入れてくれ……」
「…マ、マクシム……せめてベッドへ………ヒゥッ!!!」
シルフィアは奇声を上げて身体を強張らせた。
そしてマクシムの頭を引き剥がすと、強引にその首を曲げる。
二人が絡むソファ、テーブルを挟んで並ぶ一人掛けソファが二脚、その背凭れの裏で、真っ赤な顔をしたエフィリが二人の様子を観察していたのだ。
「…え、エフィリさん?」
「…あ、どうぞお構いなく…そのまま続けてください…」
「いや、続けられる訳ないでしょうがッ!なんでそんな特等席で覗いてるのよ!」
「いや~、エルフ王女あるあるなんですが…説明いります?」
「要らない!」
「待て、シルフィア…思想や文化を知る事が大切だと自分で言っていたではないか…ここは話を聞くとしよう」
「ヌガァァァァァッ!!!」
それからシルフィアが落ち着くまでに、マクシムへの水平チョップ4発と踵落とし2発が必要となった。
エフィリの話はこうだ。
連合は表現の自由を尊重する故に性的な規制が少なく、一般的に30歳程度から性の知識を得て、50歳で実体験を含む性的遊戯を楽しみ、そして精通や初潮を迎える100歳までには飽きてしまうらしい。
一方、エルフの王女は純潔を重んじる為に性的遊戯を行えない。200歳程度で結婚するまで交合に興味深々という、究極の耳年増になってしまうのだ。そうなると正常な性癖を維持する事が出来ず、どうしても歪んでしまうらしい。これがエフィリの言う『エルフ王女あるある』である。
エフィリもその例に漏れず248歳を迎える今でも処女であり、よって性癖は歪みまくっていた。
「…その、私はエルフ種以外の交合が好きでして…とても精力的で見ていて飽きませんから…」
「それじゃ魔王に抱いてもらえば良いじゃない?」
「そんな!さっきは殺されるかと思ったんですよ!?そんな男性を性的対象としてみる事はできません!」
「それじゃ何で興奮してるのよ!?」
問われたエフィリは身を捩りながら、熱い視線をシルフィアに投げかけた。
「命を助けていただいたシルフィア様の事が好きになったみたいで…」
「………私、貝合わせの趣味はないからね?」
「私もありません!…その…シルフィア様が魔王と交合する状況に興奮します…好きな人が凌辱され、そして快楽に堕ちていく…それを助けられずに傍観するという屈辱と無力感…そんな状況に興奮している自分への嫌悪感…あらゆる感情が混ざり、煮詰まり、熟成してゆく…それはまるで極上の料理の様ではありませんかッ!?」
「ごめん、全然解らない」
「全否定と言う激辛スパイスが追加された!?」
「駄目だこの子、完全に壊れてるわ…ちょっとマクシム、何か言ってやってよ!」
腕を組み二人の話し合いを見ていたマクシムは、意を決した様に大きく頷いた。
「…大使、いや、エフィリ王女よ…我らの交合、存分に観察するが良いッ!!」
「有難うございます、魔王様!」
「な、ちょ、バカ言ってんじゃないわよ!!」
「シルフィア、話を聞いてくれ」
マクシムは真剣な表情でシルフィアを見た。
シルフィアもその気迫に圧倒され、抗議の言葉を飲み込まざるを得なかった。
「どうやら俺は、第三者の視線を感じると興奮してしまうようなのだ」
「新たな阿呆がまた1人!?」
「実は先のフィシア第二十八王女との交合の際、シルフィアとフィシア王女、そして召使2人の合計4人の視線があったではないか。その最中での放精は何だか男らしさを誇示しているように感じ、胸が高鳴ったのだ。そして今現在、エフィリ王女に観察されながらシルフィアと交合する事に胸が高鳴っている!」
「絶対にイヤァ~~~~~~~~~ッ!!!!」
これ以後、寝所の家具が幾つも入れ替えられた。
新しい家具は以前より一回り大きくなり、不思議な事にその内部には女性が座って寛げるような空間が作られていた。精巧に施された装飾に紛れ、外部を観察できる覗き穴まで完備されている。
シルフィアは交合の際に声を殺すようになったのだが、それに興奮したマクシムの奮闘によりシルフィアは甘い声を我慢する事は出来なかったそうだ。




