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手の上で踊る

いつも通り読みにくい上に話が重くて申し訳ない。

馴染みの安い馬車に乗り、街を出た。

荷台の中は自分だけ、静かだった。


目的は、一つ。

女神の言葉を、確かめるため。

本当に、アルスター家が僕らをハメたのか、確かめるため。


ポケットの中の指輪をさすった。今の自分には、つけたくなかった。


早朝に買ったボロいマントから持ってきたワインを取り出して、軽く飲んだ。


昔、始めて馬車に乗った時。

死ぬほど気分を悪くした自分に、サーマさんが飲めばいくらかマシになると渡してきた。

それ以来、乗るときはずっと持ち込んでしまう。


相も変わらずの苦味と、甘味。


飲んだせいで、いやに冴えて静かなのが目立った。


耐え切れず、塞いで眠った。


・・・・・・・・・・


ガタツキが終わった。

アルスター家本領に着いたのだ。


白く、綺麗な家と風が僕を迎えた。


甘い匂いが、鼻につく。

ところどころの屋台から、棒飴が売っている。


砂糖は作るのに潤沢な水と暖かい気候が必要。

ここらへんだとわざわざ遠い海岸の町に行って島から船で買って来る以外ない貴重品。

それが、民間人が気軽に買える。


わりと、異様な光景だった。

ここ付近で作れてないとおかしいぐらいに出回っている。


…「ビニールハウス」とか、できればもしかしたらここでも…


だがしかし、そこが今日僕の来た理由ではない。

早くアルスター家にいる依頼主に会いに行かなくては。


見渡す。周りのよりも一回りデカくて目立つ、白く豪華な家が目に付く。


そこへまっすぐ歩いて行った。


・・・・・・・・


ぐるりと塀に囲まれた、如何にもな貴族の豪邸。


目の前の門兵が問う。

「貴様、何用だ?見たところ冒険者だと思うが…」


「あんたんとこの依頼の受注者です。少し、直接報告したいことがありまして…」

そう言って、僕は印の押された依頼書を見せる。


「ほう…貴様が…いいだろう、直接通してやろう」

門が開いた。


言われるがままに屋敷を通され、応接間に座らされた。


少し待って、扉が開いた。

青い髪をオールバックにした、身なりのキチンとした男。

「はじめまして。私はアルスター家当主、『カリマー・アルスター』です」


なんか、如何にも貴族っていう感じの男だ。

前の席に座る。

「ほう…あなたが『禁域調査』を受けたフロスヌンティウム…あれ、今日はお一人ですか?」


「はい。そのことについて、話に来ました」


カリマーは特に驚きもせず座っている。

多分、何もかにも知っているんだろうか。

なら、全部話そう。


遺跡のこと、イオのこと、仲間の最後のこと。


カリマーは、最後まで大きく動揺しなかった。

少し、眉が動いた程度だった。


「…そうか。貴重で迅速な報告、感謝する」


僕は軽く会釈し、部屋を出る。


そして、廊下を歩きながらに詠唱する。

「風よ拾え 言葉を紡げ ワードリード」


ワードリード。

壁を貫通し周囲の音を拾い聞くことができる。

言わば、盗み聞きのための魔法。

なぜか、今まで使ったこともないのにすっと唱えられた。


静かだった世界に、音が明滅しては少しずつ言葉を作っていく。


色々な声が響いていく。執事の、侍女の、婦人の、娘と思しき少女の。

その中で、途切れ途切れだが確かに、カリマーの声が作られた。


「…やはり、容易く殺したか…コレであの痴れ者共がいなくなった…だが、新参だろうあの若者も可哀想にな…今回の成果を聞けば、王もきっとお喜びに…」


ホント、女神様々だ。

昨晩言われなきゃ、今日気づかずに黒幕を見逃していた。


踵を返して、マントの中に隠した剣に手をかけた。


・・・・・・・・・・


カリマーはおかしいくらいに機嫌が良かった。

ガラにもなく独り言をこぼすくらいに。


やはり、この間夢に現れたオディギスとかいう女神の御告げを聞いてよかった。


なぜ、熱心な信徒でもない、むしろ神を恨みすらしている私にお告げが来て、そしてそれを守る気になったかは分からないが。


そのおかげで、

いずれ来る対魔族との戦争に向けた制圧兵器の実験と、

3年前に国の暗部を私を通してかぎつけたあの魔法使いの女の排除、

そして8年前のこの町での災害の真相を知った鎧の男の口封じ、

この三つが一度に終えることができた。


あの女…サーマは、この依頼で私にもう一度近づこうとしたのだろう。

だが、哀れに。みすみすコチラの罠にはまった。


…そうえば、あの青年。新参者のあの若者。

なにか、ここ最近のわが娘と似た気配をまとっている気がした。

世界に選ばれたかのような、輝かしいような力。


だが、そんなこと今はいい。

早急にイオについての報告書をまとめ王へと送らなければ。


…これで、アルスター家はよりしっかりとした地位を得るだろう。

もう後先短い私がいなくてもやっていけるまでの。


すると、扉が鳴った。

なんだという間もなく、開かれる。


そこには、先ほど送り出したはずの、可哀想な若者が立っていた。


彼は口を開く。

「…カリマー・アルスター。お前は、何故に彼彼女らを殺したんだ?」


穏やかでも哀しそうでもない、濡れた石のような、確信を持った冷たい声。


…やはり、神の戯言など聞くべきではないのだ。

読んでくれてありがとうございます!

面白かったと思ったら、続きもぜひ。

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