悪
祝10話。今回でいろいろ起こります。後お待ちかねのヒロインも。
目の前のカリマーは、半ば諦めた様子だった。
おもむろに椅子へ座り、紅茶を飲み干して話し始めた。
「私は君を可哀想な若者だと侮ったが…存外逞しかったな。なぜ怪しいと気づいた?」
「…女神オディギス様のお告げって奴ですよ。あなたも運が悪い」
するとカリマーが目を見開き、頭に手を当て、高々に笑い出した。
何が、そんなに可笑しいのだろうか。
「いやはや、どうやら我ら人間は本当に遊ばれているようだ。
私も、貴様も、はなはだ可哀想なものだ。
…さあ、最初の質問に答えてあげよう。私がアイツらを殺したのはな、かの神にそそのかされたからだ」
意味がわからない。
オディギスはこの世界を魔王から救うべく僕を転生させた。
なら、なぜ僕の仲間を殺す?
「嘘だ。ふざけたことを…」
「嘘ではない。本当のことだ。
そもそも、神など善でも正しくもないのだ。
人間のことなど、わりかしどうでもよく思っている」
後ろから、足音が迫っている。
護衛など呼ばれれば厄介だ、すぐにでも終わらせて逃げなくてはならない。
剣を抜き、高く掲げる。
カリマーはニヤけながら切りやすいよう顔を下げ首を伸ばした。
「最後に、何か?」
「神に用心したまえ、愚かな若者よ」
刃を下ろした。首が転がった。そして、火の手が上がった。
コイツ、死ぬ間際に着火の魔法を…
すると、扉が開いてしまった。13歳ほどの少女。
叫びが上がった。
素早く詠唱する。
「『樹の根よ 蛇を模し爪となり 我が支配の元剣となれ』『クローズ・ルートネイク』」
左手から3本の力強い木の根。
それらが天井を簡単に貫く。
空が見えた。
続々と足音が響いている。
器用に根を操り、燃える床を跳ねて屋根に乗り、そこからワイヤーアクションのように建物を飛び移る。
その勢いのまま、街から逃げ出した。
存外あっけない、復讐だった。
ーーーーーーーーーー
グンリプス王国王都、冒険者ギルド本部。
そこには国中から集まった依頼や指名手配書が貼られている。
『上級ドラゴン討伐依頼
ラクーン領カチカチ山にマグマナーガ出現。討伐援助求む』
『指名手配 ラプラス・ルビデ
王領にて軍の千人隊を単独で壊滅。行方不明』
『指名手配 トウヤ・アンジョウ
アルスター領にてカリマー・アルスターの殺害の後屋敷へ放火。行方不明』
『オークの群れ討伐依頼
モウヤメテ領のアカン村に18匹のオークの群れを確認。至急応援求む』
この依頼版を眺める、様々な人々。
そんな賑わいの裏、指名手配犯安生冬夜は歩いていた。
バレにくいように髪を白くして伸ばして結んでみたが、正直そこまでする必要もなかった。
手配書の自分に関する情報は3行程度、どこにでもいそうな人物しか浮かんでこない文章。
新調した黒いマントを若干邪魔に感じながら、門の方向へ歩き出す。
今回王都へ来たのは魔王討伐のための準備だ。
今は犯罪者だが、腐っても勇者。
この世界の北の端に位置するといわれる魔王城までは、海を越え山を越え、数年かかる長い旅路になる。
だから装備を買い、地図を買い、情報を得た。
そして、情報の中で気になるものが一つ。
王城で大規模勇者召喚が行われたのだという噂。
何でも90人一斉に呼んだらしい。
僕以外の勇者…おそらくは、同郷の人。
この世界は、意外と僕の世界…というか日本の文化がある。
例えば箸とか、刀とか、ことわざとか、漢字とか。
たぶん、過去にもたくさんこっちに来た人がいるんだろう。
そんな物思いにふけっていると、小さい声に呼ばれた
コッチニオイデと、少女の声。
気になり聞こえた方向へ行ってみる。
そこは裏路地、一人の妖しい女が立っている。
推測16歳程、肩までに切った黒髪はするりと綺麗だ。
ローブに隠れているが、体は華奢だとはっきりわかる。
顔はまあ美人で、深い赤の目は綺麗だった。
そして、周りに花のにおいを漂わせ薄ら笑いをしていた。
彼女が口を開く。
「ねえ、アンジョウさん。少しお時間いただける?」
こいつ、知っているか。
剣の柄に手をかける。
「まあまあ、そう警戒しないで。私は貴方を狙っていない。少し、お願いがしたいの」
「お願い?あいにく今から港町のブルーノに行くんだ。ちょっと聞けないかな」
「ああ、ならちょうどいいわ。その旅、私も同行させてくれない?」
「…こんな指名手配犯についていかなくても、もっとまともな奴にお願いすれば?正直、アンタなら酒場にでも行って愛想ふりタダで行けると思うけど」
「あら、褒めてくれてありがとう。でもね、私もちょっと訳ありで。表立っていろいろできないの」
「なんだ、アンタも同類か。…丁度いい。長旅になるし、話し相手が欲しかったんだ」
「よし、交渉成立ね。私の名前はアータム。じゃあしばらくの間、よろしくね」
「よろしく。さ、行くぞ」
ぶっちゃけ、ありがたかった。
アルスター領を出て王都までの一ヶ月間、ずっと思い出して吐きそうになってた。
…あと、この雰囲気なら失っても大丈夫そうだ。
しばらく歩いて、大通り前。
アータムが振り返った。
「そうえば、一つだけ契約」
「なんだ?契約って」
「もし、片方が捕まった時、逃げれたほうは脅されてたってことにして良い…どう?
これが飲めなきゃ私とは…」
「いいよ。全然」
アータムの表情が一瞬固まったような気がしたが、すぐに元の妖しい薄ら笑いに戻った。
「そ、そう…ありがとう。これは絶対だから、忘れないでね?」
とりあえず、港町までの仲間をゲットした。
読んでくれてありがとうございます!
面白かったと思ったら、続きもぜひ。




