森の祝婚式と、二人の未来
それから数週間後。
森の中心、千年樹のもとで、小さな婚礼の儀が行われた。
参列者はわずか十数人。
森の村で出会った人々、ミレナの友人、そして——
「……まさか、本当に来るとは思わなかった」
「娘の“選び”がどれほどのものか、この目で見たかっただけだよ」
遠路はるばる、ミレナの父がやって来ていた。
最初こそ不満そうだったが、リアンと話すうちに表情を和らげた。
「……なるほど。派手さはないが、地に足のついた男だな。お前に必要なのは、こういう男かもしれん」
「父さん……」
ミレナはその言葉に思わず涙ぐんだ。
リアンはただ、静かに微笑んでいた。
やがて、風が吹く。
空に光が満ちる。
千年樹の葉がざわめき、無数の小さな光の粒——精霊たちが舞い降りた。
その中心、ひときわ大きな光が現れる。
「人と人が心で結び合うこと、我らは祝福す。
名もなき者に贈りしは、変わらぬ風と、寄り添う土と、優しき夜」
それは、森の精霊王の声だった。
祝詞のようなその響きに、誰もが言葉を失った。
そして——
リアンとミレナは、互いの手を取り、
“星結びの宴”では決してもらえなかった本当の指輪を交わした。
それは、森の蔦と銀樹の枝で作られた、世界にひとつだけの指輪だった。
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そして、その後——
リアンとミレナは、森の管理を続けながら、ときどき王都へも顔を出す。
けれど、どんな豪華な式に呼ばれても、二人は笑ってこう言う。
「私たちの式は、森と風と光が祝ってくれたの。それ以上の贅沢は、ないわ」
時々、かつての婚活参加者が“選び直し”を求めて訪れることもあるが、
そのたびにリアンは、決まってこう答える。
「申し訳ない。僕はもう、“選び続けたい人”がいるんです」
ミレナはそれを聞くと、少しだけ顔を赤らめて、
「そういうときは、ちゃんと名前で呼びなさいよ」と言って、微笑んだ。
そして、森の奥深く。
今日もまた、見えない祝福の風が、ふたりのもとを優しく包んでいる——
⸻
完