残りものだった二人の選択
数日後、森に馬車がやってきた。
立派な金装飾の御者台。王都の象徴旗がたなびいていた。
降り立ったのは、星結びの宴の主催者である、王宮顧問官アラステル。
彼は、私ではなく、リアンの名を呼んだ。
「リアン・グレイ。君の“森の防衛”について報告が入った。魔獣の出現を未然に防ぎ、被害ゼロ。加えて精霊との協力体制——これは、前例のない成功例だ」
「……伝えるようなことではなかったつもりですが」
リアンはどこまでも謙虚だった。だが、アラステルは続けた。
「よって、君を“王立自然保全団”の監督官に任命したい。給与は王族付き魔導官の三倍。住居は王都。護衛もつけよう」
私は息をのんだ。
それは、婚活市場であればトップランカー入りするような立場。
宴の最終順位、下から三番目だった男に対する、破格の評価。
——そして、案の定。
「……ええ、あなたがあのリアン様!?」
「ポイント制なんて意味なかったのね!」
「実は私、あなたに最初から好感を……」
宴に参加していた他の女性たちが、後から後から森へやってきた。
その中には、私が最初に告白して断られた騎士令嬢もいた。
彼女は涼しい顔で笑いながら、リアンに近づく。
「ずいぶん野暮ったいと思ってたけど……中身は素敵なのね。もう一度、選び直してみない?」
——私は、反射的に前に出た。
「待って」
「……え?」
「彼は、“残ってたから”選ばれたんじゃない。**私が“選び続けている”の。だから……もう、選び直す必要なんてないのよ」
自分でも、どこからこんな言葉が出てきたのかわからなかった。
リアンが、少し目を見開いた。
でもすぐに、ゆっくりと、うれしそうに笑った。
「ありがとう。……それなら、僕も、選び続けますよ。君を」
その一言に、森の風がふっと吹き抜けた。
精霊たちが、さわさわと枝を揺らす音が、拍手のように響いていた。
選ばれ残ったはずの二人が、
ようやく“自分の意志で、誰かを選び合った”瞬間だった。