森の家で見たもの
「……ここがあなたの家?」
私が言葉を失ったのも無理はない。
森の奥、獣道のような小径を抜けた先に、リアンの家はあった。
家というより、小さな森ごと、彼の“住処”だった。
蔦に覆われた丸屋根の木造の建物。
小川が横を流れ、軒先には干された薬草や果実が並んでいる。
一見すると古びた小屋だが、空気が澄み、足を踏み入れるだけで心が静まる。
「森の精霊に許された場所なんです。余所者が来ると、道が消えることもあるんで」
「……魔法は不得意なんじゃなかった?」
「“点数化できる魔法”が苦手なだけです。こういうのは、相性次第」
リアンはそう言って微笑んだ。
柔らかく、まるで森の風そのもののような笑顔だった。
私は思わず視線を逸らした。
この男、なんだか、嫌なタイプではなさそうだ。いや、むしろ好ましい。でも、それが少し腹立たしい。
「……でも、こんな場所で何をしてるの?」
「森の病気を診たり、薬草の分布を見たり、精霊の相談に乗ったり……」
「精霊って、あの?」
「ええ。人の言葉、あまり話せませんけど」
リアンは奥の部屋に声をかける。
「ユーリ、出ておいで」
すると、小さな光がぽうっと浮かんだ。
やがてそれは蝶のような姿になり、私の前を舞った。
「……すごい。本当に、精霊?」
「彼女、あなたのこと気に入ったみたいです」
私は黙ってその光を見つめた。
魔力量でも剣術でもなく、評価されない“能力”で森を守り、精霊に信頼されている男。
——ポイントなんて、何だったのだろう。
気づけば、心のどこかで呟いていた。