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Ruff ruff growL !! : ラフラフ・グラウル!! 《休載中》  作者: 永久島 群青
第4章:彼らは意図せずアンダードッグスと呼ばれはじめる。

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第34話:マユ&ダチュラvsホッパー。



◇34◆



 銃声が鳴り続けている。ダチュラが前に出て、距離を詰めている。弾丸を避けながら、刀を振るうも、ホッパーがそれを躱し、銃口を向けて躊躇いなくトリガーを引く。


 マユは銃を片手に、回り込むようにして駆ける。身長も一五八センチの小柄な身体で、なんとか懐へと入り込もうとするも、連射型のオートマ銃を前に、距離を測りかねている。


――的が動く。これは練習じゃない。


 ジャジャ・ショットで撃っていたとき、命中率は少しばかり上がったが、それはあくまで的が(・・)動かない(・・・・)ことが条件だった。


 だが、実戦ではそうもいかない。


「一か八か……」


 ダチュラが後ろへ跳ねた瞬間、トリガーを引いた。だが、上振れしてしまい――。


「いってぇ!?」


――ダチュラの背中にあってしまった。


「あんたなにしてんすか! 敵はあっちでしょうが! 実弾だったら死んでるっすよッ!?」


「す、すみません……」


「へえ……非殺傷弾か。情報通りだね。君は人を殺すのは嫌なのかな」


 間合いを取りつつ、ホッパーは眼鏡のブリッジを指で押し上げる。


「……私は、か、監獄チルドレンです。両親は、私が、その……人を殺すことを良しとしませんでした。だ、だからその気持ちを、無為にしたくない」


「なるほど――」


 ホッパーは口元に笑みを浮かべ、その目に殺意がぬらぬらと光り、マユを睨み付けた。


「――殺し合いも出来ない人間が、僕に挑むのか。舐められたものだね」


 嘲るように、ホッパーは哄笑した。その隙にダチュラが飛び出す。


「人の信念を笑ってんじゃねえよ!」


 斜めからの袈裟切りを仕掛けるが――。


「だから、舐めるなと言ってるんだよ。ぬるま湯に浸かった人間に僕は殺せない」


 そのわき腹に銃弾が突き刺さった。連続して右肩、ひざへと撃ち込まれる。


「ぐあああああッ!?」


「だ、ダチュラ、さん!」


 ひざをついたところで、脳天に銃口を突きつけられる。「死ね」と、短く言うと、そのままスライドして、トリガーを引く。


 しかしとっさに左側へと周りこみ、その背中へと刀を振り下ろす。


「うちのボスを守るのが俺の役目だ! まだ死ねねえんだよッ!」


 振り切った刀は空を切り、ダチュラは目を見開く。その刹那、ひざ蹴りが左わき腹へと入り、吹き飛ばされ、壁にぶつかって、ずずず、と倒れ込む。


「銃だけだと思ったのかな。そんなわけないだろう。少し考えれば分かることだ」


「う、ぐ……」


 ホッパーはつかつかとダチュラへと向かって行く。マユは照準を絞り、トリガーを引いた。


 弾丸が奔り、ホッパーの肩へと当たる。少し驚いたようにこちらを見た瞬間、その隙を突いて、乱射した。


 だが、それを躱しながら駆け出してきて、間合いを詰められ、グリップでこめかみを思い切り殴られた。頬に拳が、さらに髪をつかまれ、腹へひざが入った。


 全身に鈍痛が走り、皮膚が切れ、鮮血が舞う。


「僕に銃弾を当てたな?」


 回し蹴りでつま先が脇腹へと吸い込まれ、咳き込むと血が混じっている。だが――。


――この距離なら、当たる。


 痛みに顔をしかめながらも、銃口を腹へ向けて撃つ。鈍い音がして、ホッパーは二歩ほど下がった。


「二発も当てた……いいよ、まずは君から殺す。一番苦痛を感じる殺し方でね」


「うああああああああああッ!?」


 銃を向け、両肩を弾丸が貫き、あまりの痛みに叫ぶ。連続してひざを撃たれ、真っ赤な血が地面を濡らしていく。


 両ひざをついて、銃がその手からこぼれる。握っていられるほどの握力も残っていなかった。


 そんな彼女に向かって、ゆっくりと歩いてくる。眼鏡の奥の目は、もう笑ってはいない。殺意で濡れていた。


「次は――頭だ。死ね」


 チャキリという音がして、ひたいに銃口が押し付けられる。


――私は。


――このまま、死ぬのかな。


――リンダやラット、ノブアキみたいな強さが、欲しかったな。


――いや。


――せめて最期くらいは。


「……なにが可笑しい?」


 マユは笑みを浮かべていた。痛みが全身に回って余裕などないが、それでも笑った。


「私を殺せても、あなたは、あの三人には勝てない」


「遺言はそれで良いのかい」


 マユは金髪で隠れた目を閉じなかった。最期の瞬間まで、笑みを浮かべ、相手の目を睨んでいた。


 ぎり、とトリガーに指がかかる。


「ここで私が死んだとしても――心までは負けない。負けたくない」


「そうかい。遺言がそんな戯れ言じゃあ――うぐッ!?」


 銃声と同時に、ヒュン、と空気を裂く音が聞こた。その直後に、声を上げたのはホッパーのほうだった。


 ホッパーの右肩に小刀が刺さっていて、彼の放った銃弾は照準がズレてマユの頬をかすって地面を穿った。


「青い鴉の情報を掴んだから、教えに来たんだがね。もう会敵しているとは、いやはや。若いもんは行動力があって困る」


 ホッパーはマユの後ろを睨み付けている。肌を刺すほどの殺気を放ちながら。


「――永明、さん」


 そこに立っていたのは、和服の老人であり、弁天一家の(かしら)――永明だった。


「久しぶりに良い覚悟を見た。死を前にしてなお、相手に喰らいつかんとする覚悟。そんな君だからこそ、手を貸そう」


「え、えと……その……」


「ふふ。まあ良い。それより怪我の手当てを。蔵丸、この子を頼むよ」


「はい。とはいえ、この傷じゃあ、応急処置くらいですけど」


 後ろに控えていた蔵丸が医療キットを持っていて「万が一に持ってきていて良かったよ」とため息をついた。


「なんで……? 敵、だったのに」


「君たちには恩があるからね。俺が荒らしてしまった弁天一家を戻してくれただろ」


 そう言うと、蔵丸は消毒液やガーゼ、包帯を取り出す。


「それに――君の覚悟は本物だ。正直、驚いたよ」



◇◆



「女子供の次は老人か。まったく、張り合いがないね」


 ホッパーは刺さった刀を引き抜いて放り投げる。目の前の老人――永明と呼ばれた男は、白い口ひげを撫でて笑みを浮かべていた。


「ふふ。そうつれないことを言わないで、手合わせを願うよ」


 そう言って刀を抜くと、永明と呼ばれた老人は身体を横向きにする。顔の横に刃を上向きにして構え、剣先をこちらの目先へと向けてくる。


「……変わった構えだね」


「これは霞の型というのだよ。さあ、始めようかね――」


 言うや否や、銃弾が射出されて永明はその弾道に沿って刀を振った。キンッ! という甲高い音共に弾かれて、壁に穴を開ける。


――弾道を読んだのか。


 同時にホッパーに向かい駆け出してきて、下段からの掬い上げるような一撃を跳躍して躱す。


 だが、着地したところに切っ先が迫って来ていて、とっさにのけぞるように避けた。


「……なるほど。老人にしては俊敏な動きだね」


「この場所で生きてきたのだから、それくらいの腕はあるものだよ」


「伊達に歳は喰っていないということか――」


 スライドしてホッパーは連射する。それを蛇行するように駆けて躱し、ダンッ! と踏み込んだ一撃が銃身を両断する。


「武器破壊――!」


 一瞬、驚いた表情をしたものの、すぐに笑みを浮かべ、腰に垂直に隠していた小刀を握り、永明の頸動脈を狙って突く。


 首をかしげて避けられ、頬に赤い一閃が走った。


「読めないと思うたか?」


「なかなかに老獪だね」


 小刀で心臓を狙い、弾かれ、袈裟切りにされそうになるのを後ろへステップを踏んで躱し、さらに踏み込んできたところで――その腹へ蹴りを見舞った。


「……ッ!」


 そこでようやく永明の表情が曇り、その隙を逃さずに頬へ拳を叩きつけ、ひざを踏みつける。


 口から血が滲み、こめかみが切れて血が流れて口ひげが赤く染まる。


 半身を翻して回し蹴りを入れ、その遠心力を持って裏拳をあごに当てた。


――結局は老人。速さにはついて来られない!


 ホッパーは笑みを深くして小刀をその肩に突き刺す。


「次は心臓を――」


 言いかけたとき、永明が笑っていることに気付いた。


「……なんだ?」


「最大の勝機は、相手が勝利を確信したときだ。覚えておきなさい、若造」


 その眼力に殺意が宿り、その気迫にホッパーはとっさに小刀から手を離してしまった。


 永明の刀の柄頭が腹へとめり込んでよたったところで、腰をひねり、左の拳でアッパーカットが入る。


 足が地面から浮いた瞬間――その腹に刀で一文字に切り裂いた。


「がはッ!?」


 そのまま後ろに倒れ、ホッパーの意識が遠のいていく。


「私も腕が落ちたな。まったく、老いたくはないものだ」


 永明の言葉を聴きながら、ぷつりと視界が暗転した。



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