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Ruff ruff growL !! : ラフラフ・グラウル!! 《休載中》  作者: 永久島 群青
第4章:彼らは意図せずアンダードッグスと呼ばれはじめる。

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第31話:プロテアの過去《中》――覚醒者。



◇31◆



 高校の三階部分にある中屋上――そこにはカギがかかっていて、曇りガラスで外の様子が見えない。


 辰木たちはどこからかカギを手にしていて、荒城の胸ぐらを掴むと、外へ蹴りだした。


「――ッ!」


 受け身が取れず、さらにはコンクリートであるからあごをこすり血が滲んだ。


「おい、辰木。どうやってカギとってきたんだよ」


「バカか。俺は優等生だぞ。理由なんていくらでも作れるさ。たとえば――自主的なゴミ掃除、とかな。ヤンキーじゃ疑われるけど、俺らならこの通りだ」


 取り巻きの三人はその言葉にゲラゲラと笑った。


「……ッ」


「なんだよ、その目は」


 立ち上がろうとした瞬間、蹴りで腹を踏みつけられて「グブッ!?」とひざをつく。


「グブッ!? だってよ。ダサすぎるだろ」


 物真似をするように表情作っておどけると、三人は手を叩いて笑った。


――竹刀さえあれば。


 一瞬、そんな言葉がよぎった。けれど、師範は『人を助けるために使いなさい』と言っていた。


 自分のエゴのために振るう剣は暴力だと。


 愚直にそれだけを守ってきた。


「あ、そうそう。野球部から借りてきたんだ」


 そう言って金属バットを取り出し、なんの遠慮もためらいもなく、横薙ぎに荒城の脇腹へ叩きつけた。


 予想以上の衝撃によたり、手すりにもたれかかる。それを好機と睨んだのか、何度も何度も腰や足、わき腹へバッドで殴り掛かる。


 痛みで全身が痺れて、経っていられなくなって、その場にしゃがみ込んだ。それでも意識は明瞭だった。


「……んで」


「あん?」


「なんで、こんなことするんだ」


 荒城は震える声で問いかける。辰木は一瞬ポカンとした表情になったが、そのあとからケケケ、と笑った。


「良い子にするのも退屈なんだよ。ストレスばっかりでさ。お前は良いよな。誰にも期待されないし、落ちこぼれだし。それに比べて俺らはどうだ。可哀相だろ?」


 ま、お前には分かんねえか。そう言って続ける。


「街中だと暴れたら即逮捕だけどさ、ここならカメラもない。いくらお前が訴えかけても、教師は俺らを信用してる。でもよ、信用を得るってのが、疲れるんだよ」


「ま、今日はさっさと帰れよ。あと、その傷は転んだって言えよ。言わなかったら――次はこれだけじゃ済まないからな」


 辰木はバッドを振り上げ、振り下ろす。


「やめてッ!」


 振り下ろす瞬間、柚牧が荒城を抱きしめるようにして声を張り上げた。


「なんだよ、柚牧。てめえ、こいつを庇うの」


「当たり前でしょ。幼馴染なんだから」


「へえ……」


「この件は先生に抗議する。この子は言わないでって言ってたけど、もう見てらんないから」


 その言葉に、辰木の目の色が変わった気がした。


「そんな弱いやつ、どうして庇うんだ? 好きなのか?」


 首をかしげる辰木に、取り巻きが茶化すように笑う。だが、そんな空気の中でも――。


「好きだよ。私は荒城が好き。少なくともあんたみたいな卑怯者とは違うから。なにか文句でもある?」


 そうきっぱりと言い切った。


「……白けた。昼休みも終わるし、戻るぞ。お前ら」


「うーす」


 四人が中屋上から去っていったとき、「怖かったあ」と柚牧は言って、こっちを見て微笑んだ。


「こんな怖い思いを耐えてるなんて、すごいよ。本当に強いね、荒城って」


「そ、そんなこと……そっ、それより、さっきの、その、言葉だけど」


「――好きだよ。ずっと前からね」


 真っ直ぐに目を合わせ、柚牧は優しく目を細め、荒城の頬を撫でた。


「えと、俺、告白されるの初めてで、なんていうか」


 しどろもどろになる荒城に、くすくすと笑いながらすっくと立ちあがると、手を差し伸べてきた。


「答えはいつでも良いよ。まずは荒城が私のこと好きだな、って思ってくれなきゃね。無理やり付き合っても淋しいだけだからさ」


「――うん」



◇◆



――翌日の夜。


 雨が降っていた。


 ソファーに座って文庫本を読んでいると、チャイムが鳴り、こんな時間に珍しいな、と思いながらドアを開く。


 そこには傘を差した辰木が立っていて、笑みを浮かべていた。瞬間、手足がしびれ、動悸が激しく鳴った。


「な、んで」


「良い家だなあ。家に入れろよ」


「……」


「なに、トモダチが来たのに入れてくれねえの?」


「あの、その……」


「まあいいや。今日は別の用事があるし」


 そう言って分厚い封筒を押し付けるように手渡した。


「……え?」


「HINOMARUじゃ足が付いちまうからな。骨董屋で買ったポラロイドカメラで撮ったんだ。ま、楽しめよ(・・・・)


 辰木はそれだけ言うと、ドアを閉める。嫌な予感に早鐘が鳴り、二階へと上がるとビリビリと封筒を破る。


 そこには写真が入っていた。


「……柚牧……」


 そこには、裸体の柚牧が写っていた。泣きながら、髪を引っ張られながら、暴行を受けている姿が。


 何十枚という写真すべてが、そうい(・・・)った(・・)ものだった。猿ぐつわをかまされ、何度も暴れたのか、ブレているものもある。


 そしてその細部を見れば、見慣れた家具やカーテン、ベッドのシーツが目に入り、それは柚牧の部屋であることが分かる。


 彼女の両親も共働きで、帰宅が深夜を過ぎることも少なくなかった。だが、そんなことよりも――。


「柚牧……!」


 居ても立っても居られない気分になり、傘もささずに隣りの家へと向かう。この時間であるなら、柚牧の両親も不在だろう。


 互いに共働きだというのも、荒城と仲良くなった理由のひとつである。


 カギは空いていた。普段なら、防犯のために占めていたカギが。


 失礼かとも思ったが、今はそれどころではなかった。ただただ心臓が速まり、階段を上がっていく。


「柚牧――……!」


 柚牧の部屋を開いた瞬間、その目の前の口径を見て、ひざから崩れ落ちる。


「柚牧……」


 そこには、首をくくった柚牧の姿があった。全裸で、ゆらゆらと揺れながら、その目は、あの優しいものではなく、深い、深い暗闇を湛えていた。


 その美麗な顔は青あざまみれで、赤く腫れている部分も見て取れた。


 歯も何本も折れてしまって、舌は切り取られ、口元から血が滴っている。


 太ももを伝った血が、つま先から落ちて、畳に滲んでいる。両手両足の爪は剥がされ、乳房の部分には円以上にタバコ痕があり、水膨れになっている。


「あ、ああ……」


――なんで、なんで、なんで。


――なんで、こんなに、酷いことが出来るんだ。


 荒城は自宅に戻り、年代物だと教わった客間に置いてあった刀を手にした。そして――家を出た。


「もういい。殺してやる」


 そうつぶやいて、暗闇の中へと姿を消した、粘り気のある雨に、足を取られることもなく、真っ直ぐに。



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