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Ruff ruff growL !! : ラフラフ・グラウル!! 《休載中》  作者: 永久島 群青
第4章:彼らは意図せずアンダードッグスと呼ばれはじめる。

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第27話:三階層の二大勢力。



◇27◆



 三階層――東地区。


「モグラから号外だとよ、シンゼン」


 東地区の拓けた場所に長テーブルが置かれ、十脚の椅子が並んでいる。その上座に腰を下ろす男――シンゼンに、幹部であるハルヒサが紙を手渡す。


 シンゼンは二メートルはある巨体で、筋骨隆々の身体、髪はオールバックに、上半身は裸で山のように僧帽筋が盛り上がっている、両腕も太いしめ縄のように絞られていた。


 そしてその背中には巨大なドクロのタトゥーが入っている。


 ハルヒサはワイシャツにチノパンといったシンプルな格好をしていた。


「チーム名は無し、便宜上“アンダードッグス”と呼称ねえ……くく、あいつらしいなあ」


 そこには四人の名前と写真が載っている。


『紳士服の修羅、リンダ』


狂猿(きょうえん)のラット』


『不死身のノブアキ』


『不殺弾のマユ』


「……まーたあいつは勝手に二つ名をつけてるのか。物好きだなあおい。で? 俺がこんな撒き餌(・・・)にまんまと引っかかると思ってるのか」


 ここに書かれている情報はあくまで表面上のものでしかない。もっと深く知ろうとすれば、モグラを見つけ出し、金を払わなければならないのだ。


「でもよシンゼン、こいつら、ビースト・ラボと弁天一家を潰したらしいぜ。それもたった一日で」


「……くはははは! そりゃあ、久しぶりに活きの良い新入りが来たもんだな。怖いもん知らずかよ」


「一応、気にはしておいた方が良いかもよ?」


「あーん? 今はそれどころじゃねえだろう。うちと――《茨の王冠》が緊張状態なんだぜ、おい」


 東の《バッド・クラウン》と西の《茨の王冠》は元々、『クラウン・コード』とい名前のギャングだった。


 しかしいつしか思想が割れ、弁天一家との戦争でそれは決定的になり――二つに分かれてしまった。


 そして今も、この三階層の支配を狙って睨み合いが続いているのだ。


「シンゼン、あんたの実力は認めてるよ。でも、そればかりに気を取られるのは、悪いクセだ」


「どういう意味だよ、そりゃあ」


「もしアンダードッグスとやらが三階層まで来たら、三つ巴の戦いになる。そうなったら、混戦を極めるだろ? もっとややこしいことになる」


――最悪の場合、アンダードッグスに三階層を支配されるかもしれねえぜ。


「そうはさせねえって。すべては力あってのもんじゃねえか。ややこしいことなどない。面倒な連中からねじ伏せていけば良いってことだろ」


「まったく、これだからうちのボスは手に負えねえ」


「し、シンゼン、様……」


 不意に声がして入口の方を見ると、垢まみれでやせ細った壮年の女性が地を這うように、かすれた声で呼んでいた。


「誰だてめえは」


「物資を、物資を分けてください……もう、食事が、出来なくて」


 その声は震えていた。頬杖をついてシンゼンは目を細める。


「で?」


「わ、私には子供もいます……他の人も、餓死寸前で、このままじゃ」


「このままじゃなんだ? 西側に行きたいか? 二階層に上がりたいか? それとも一階層か? そんなもん、俺が認めると思うのか。上にあがったやつはもれなく死刑だ」


「だ、だから、せめて、ご飯を」


「ちゃあんと渡してるだろ。二週間に缶詰一個と水。上等な飯じゃねえか」


「それ、じゃあ、た……足りなくて」


 ふん、と鼻を鳴らしてシンゼンは立ち上がる。女性は見上げて顔を青ざめさせ、全身が震えているのが見て取れた。


「贅沢言ってんじゃねえよ。てめえらの命は俺のもんだろ。俺が行けと言えば駒になり、死ねと言えば屍になる。それがバッド・クラウンのルールだ」


「う、うう……」


 その眼から涙がこぼれる。それは恐怖からか、絶望からか――それはハルヒサには分からない。両手で顔を覆い、その場で泣き崩れる女性の心情など。


「ああ、鬱陶しい。せめて最期くらい――楽しませろよ」


 シンゼンは女性の襟首を掴んで無理やり立たせ、その垢まみれの顔に岩石のような拳を叩きつけた。


「くぶっ、カハッ!?」


 それだけで女性は目を回し、血を吐き出して、咳き込むと歯が血だまりに飛び散った。


「てめえらが俺に反抗するってのはなあ、許されねえんだよ。俺は――この階層の主になるんだからなあ!」


「ひっ……!」


 もう一度立ち上がらせるが、すでに真っ直ぐに立てていなかった。失禁していて、目も虚ろになっている。


 その細い首を握りこみ――シンゼンは笑った。


「良かったなあ、これで飯の心配はいらねえぜ」


 ゴキリ、という音とともに、女性が脱力して、手を離せばそのまま地面へと伏した。泡を吹き、白目を剥いて。



◇◆



 三階層、西地区。


「あー、つまらねえな」


「プロテアさん、モグラからの号外っす」


 プロテアと呼ばれた青年はストレートヘアにVネックTシャツ、黒のジャケットを合わせ、同色で七分丈のパンツを履いていた。靴はとんがりブーツである。


「知らねえ顔ばっかりだな。新入りかよ」


「なんでもビースト・ラボと弁天一家を潰したとか」


「ダチュラ、いちいち言わなくても良いって。ここに書いてんだから。それにしても、便宜上、アンダードッグスって。この二つ名と言い、相変わらずセンスがねえなあ、あの情報屋は」


「す、すみません」


 ダチュラは一八〇ほどの身長で、痩躯である。髪は両サイドを刈り上げ、ツーブロックにして、白のロングTシャツにブーツカットのデニム。先の丸まったブーツを履いている。


「……にしても弁天の永明も耄碌(もうろく)したんかね。新入りなんかにやられやがってさ」


 プロテアはため息をつくと、ソファーに寝転んだ。「どうします、先にこいつらを潰しますか」


「バカ言うなっつーの。新入りを潰すより、三階層を支配したいんだよ、俺は」


 そう言うと、紙を丸めて投げ、腕を枕にして天井を見上げた。


「つまんねーな。睨み合ったって結局は戦争だろうに」


「でも、今のほうが安定してます。西側は、ですけど……」


「こんな場所で安定なんて、皮肉が効きすぎだろ」


 プロテアは笑うことなく、寝返りをしてダチュラに背を向ける。


 心の中では戦いたいと思っている。誰よりも強くなりたいと。この三階層を支配できるほどに、四階層を狙えるほどに――。


 そしてゆくゆくは、最下層まで支配下に置き、カギを見つけ出して抜け出すために。


 しかし弁天一家との戦争で、もっとも強かった『クラウン・コード』はいとも容易く敗北を喫し、挙げ句、この分裂騒動だ。


 今じゃ互いに睨みを利かせ、いつどのタイミングで戦争が始まるかも分からない。だったら今すぐにでも――とそう思うことも最近は多くなっていた。


 プロテアは本気の殺し合いがしたいのだ。


 互いが余力も残らないほどの全力を尽くし、殺し合う。それこそが、彼の望みであり、退屈を潤すものだった。


 だからこそ、今この現状はあまりにも苦痛なのだ。


「でも、実力は未知数っすよ。もし戦争に参加してきたら」


「それは第三勢力としてか? それとも――バッド・クラウンと手を組むってか」


「いや……それは分かんねえっすけど」


「興味が湧かないんだよ。興味が湧かないってことは、相手するだけ無駄ってことだ」


「果たしてそうかな」


 ふと、ダチュラではない声がして、ゆっくりと身体を起こす。


「フェンネル。どこ行ってたんだ。また大好きなお散歩か?」


「どこでも良いだろ。お前には関係ない」


「一応、ボスやってんだけどな。ま、お前の趣味には興味ないし別に良いけど」


「それより、フェンネルさん。なにか含みがあるような言い方でしたけど」


 フェンネルは金髪の両サイドをシャギーにして、ワイシャツに黒のベスト、同色のワイドパンツに編み上げブーツを合わせている。


「一日でビースト・ラボと弁天一家を潰した、それもたった四人で。それは簡単なことじゃないだろう?」


「そうかもな」


「つまり、弱くはないってことだ。先手を打たないと――後手に回るかもしれん」


「後手に回ったところで、力が全てだ。返り討ちに出来るだけのメンバーは揃ってるだろうに」


「お前はまだ甘い。先手を打たれて、負けることを考えていない」


「戦争の前に負けることを考えるバカがどこにいんだよ」


「それでも負ければ、三階層以降の支配は出来ない。待っているのは死、のみだ」


「……あー、もう。面倒くさいな。興味もないやつとの殺し合いなんて……でも、俺の夢がかなえられないのは、もっと嫌だな」


「動きますか、プロテアさん」


 プロテアは立ち上がり、首をコキリと鳴らす。


「――ああ。面倒なことは、早めに終わらせたほうが良い」



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