何でもできる探偵社2 刑務所にいる男を殺せ!(探偵小説)
「何でもできる探偵社」第二弾
所長、国沢裕介が大活躍
この小説は、短編のときに評価していただきました。
ありがとうございました。
ある日、憔悴しきった女性が「何でもできる探偵社」に来訪した。
従業員の笹渕が、すぐに所長室へ通した。
「ようこそいらっしゃいました。所長の国沢裕介です」
「吉沢京子と申します」
見るからにやつれている。
本来は美人なのかも知れないが、髪の毛はバサバサのままで、化粧は全然していない。
服装も粗末なものである。
国沢はソファにかけるように勧めた。
彼女は腰を下ろした。
「それで、どのようなご相談でしょうか?」
「わたし、一昨年のクリスマス・イブの会社の飲み会のあと、ホテルに連れ込まれてレイプされたんです。わたしは警察に訴えました。犯人は上司の山口敏夫という男です」
「それでどうなりましたか?」
「山口は懲役15年の実刑判決を受けて、巣鴨刑務所にいます。でも上司を訴えたために、わたしは会社にいられなくなりました。精神的に参ってしまって、今はほとんど収入がなくなりました」
「なるほど。それで、どうなさりたいんですか?」
「この手で、山口を殺してやりたいんです」
「ははあ、そりゃまた、大変な決心をしましたね。でも15年後まで、待てないんですか?」
「待てません。15年も生活費が続くかどうか。それで刑務所にいる山口を何とか殺したいんです」
「つまり、刑務所にいる男を殺したいけど、どうすればいいかという、ご相談ですか?」
「そうです」
「なるほど。できないことはありませんよ」
「本当ですか?」
吉沢さんは驚いた顔をした。
「ただし、あなたが殺すことが条件です。うちは殺し屋まではやってませんからね」
「わかりました」
「料金は200万円です」
「それくらいなら、持っています」
「我々が山口を刑務所から引っ張り出しましょう。その後はご自分でなさって下さい」
「わかりました」
彼女は契約書に署名した。
国沢は手順を説明した。
「うちの従業員を刑務所に収監させて、山口を刑務所から脱走させればいいんです。そのあとはご自分でやって下さい。
「車で轢き殺すのが、一番簡単です。ナイフで刺そうなんてすると失敗する危険がある上に、成功しても殺人罪になる。あなたは運転できますか」
「できます」
国沢は、巣鴨刑務所周辺の地図を広げて、指で場所を示した。
「ここだ。ここに山口を引っ張り出すから、あなたは車に乗って待機していてください。それでは、あとは我々にお任せください」
彼女は、いったん事務所を辞去した。
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国沢は、従業員の桜木健吉という男を呼んだ。
桜木は、35歳の柔道二段、腕力だけが取り柄の男である。
「いいか。まずお前が俺を思い切り殴れ。それからすぐに俺は警察に通報する。俺は仕事上のトラブルで、お前と口論になって殴られたと言って、お前を告訴する。
「全治1ヶ月の怪我なら、初犯でも実刑になるだろう。巣鴨刑務所に山口敏夫という男がいる。これがその男の顔写真だ。よく覚えておけ。この男を刑務所から脱走させるんだ」
「わかりました」
「刑務所にいる間の給料はもちろん払うし、成功したらボーナスも出そう」
桜木は山口の顔写真を頭に焼き付けると、国沢を思い切り殴った。
彼はすぐに警察に通報した。
うまく口裏を合わせた桜木は、計画通り傷害罪で実刑判決を受け、巣鴨刑務所に収監された。
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刑務所の中で、桜木は山口を見つけ出し、休憩時間に話しかけた。
タバコは配給制であり、作業の合間に休憩時間がある。
山口の容貌は、いかにも元中間管理職のサラリーマン・タイプである。
レイプするような男には見えないが、性欲は外見で判断しかねるものだ。
「タバコをどうぞ」と、桜木は気前よくタバコを差し出した。
「こりゃ、どうも」と、山口は紳士然と受け取った。
「わたしは傷害罪で懲役5年になったんです。あなたは?」
「わたしは15年ですよ」
やはり部下をレイプしたなどと言うはずがない。
「そりゃ長い。出所したらどうしますか?」
「まるで見当もつきません」
やはりそうだ、レイプで前科があったら、誰が雇うだろうか。
「どうですか。脱走したら」
「そんなの無理でしょう」
「そうでもないんです。あなたは見たところ模範囚だ。監視が甘い。それに刑務所の裏側。裏側といっても、真裏ではないが、警戒の甘いところがある」
「しかし脱走しても、またすぐ捕まるでしょう」
「大丈夫ですよ。実はわたしは探偵事務所の社員なんです。警戒の甘いところに、トラックが待っているから、それに飛び乗ってください。
「あとは、うちの探偵社にしばらく潜んでいてください。ほとぼりが冷めたら、従業員として使ってあげると、所長が言ってましてね。生活の心配もない」
「あなたは、なぜそんなことをわたしに話すのですか?」
「あなたの奥さんから依頼を受けましてね。報酬も前払いで頂いております」
山口が離婚してないことも確認してある。
レイプなどすれば、すぐにも妻に離婚されるのだが、山口は妻が寄りを戻したがっていると思ったようだ。
彼はすっかり信用した。
「いいですか。今まで通り模範囚でいてください。わたしが外部と連絡をとって、決行の日取りを決めますから」
やがて、刑務所への差し入れに隠してあった手紙に、決行の日取りが書いてあった。
「決行は、明後日の午後です。監視員の目を盗んで、塀にはしごをかけてください。塀の外側の道にうちのトラックが止まっている。
「その荷台に飛び降りてください。それから、我が社の探偵事務所に直行します。しばらくそこに潜んでいてください」
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山口は監視員の目を盗んで、指定された場所に、はしごをかけて塀の天辺に乗った。
塀の高さは6メートル以上ある。
見下ろすと、桜木が言った通り、そのすぐ下にトラックが停車していた。
彼は、その荷台に飛び降りようとした。
だが、彼が荷台に着地する寸前に、トラックが走り出してしまい、彼は固いアスファルトの道路の上に落下した。
トラックが走り出してしまったので、距離感覚が狂い、飛び降りた瞬間に、足をくじき、腰も痛めて動けなくなった。
その直後、走ってきた乗用車が山口をはねた。
山口は跳ね飛ばされて、刑務所の向かい側にある家の塀に叩きつけられ頭部を強打した。
救急車で病院に運ばれたものの、やがて絶命した。
運転したのは、もちろん吉沢京子。
彼女は、業務上過失致死罪で逮捕された。
彼女は、恋人の住むマンションに行く途中だと警察で言った。
恋人役も社のものが、裏バイトに頼んでおいた。
裏バイトが吉沢と付き合っている芝居も、しばらくの間、させておいた。
しかも裏バイトの住む場所への近道でもある。
警察は、吉沢京子の言い分を完全に信用した。
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それからおよそ1年で、吉沢さんは釈放された。
彼女は、我が探偵社に来た。
「これで敵が討てました」
彼女は嬉しそうに言った。
「よかったですね」
「でもこれからどうしたらいいのか、わからなくて」
「よかったら、我が社に入所しませんか?ちょうど従業員が欲しかったところなんですよ」
「喜んで」
吉沢さんは、みるみる元気を取り戻していった。
やがて桜木も釈放された。
「おい。吉沢さんに手を出すんじゃねえぞ」
「所長。そりゃ、きついっすよ。僕はまだ独身なんですから。それにまだボーナスをもらってません」
「そうだった。悪い、悪い」
国沢は10万円入った封筒を桜木に手渡した。
「これで吉沢さんを誘うといい」
「ありがとうございます」
桜木はすぐに吉沢さんをデートに誘い始めた。
「何でもできる探偵社」に、大きな笑い声が湧き上がった。