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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神聖

教会の中央に鎮座する神像が渇く事は、最大の不吉とされている


常に神像は純粋な少年の血で濡れている必要があり、幾つかの受難の時代には聖者が身命を賭して神像を鮮血で濡れされたと伝承には残されていた


「何故、少年の血なのか」という問いに対する答えは複数用意されているが、最も一般的な回答として『次の生命を産み得ないから』だと言われている



我々の神は『滅び』を象徴する


一対の翼と山羊の頭を持ち、智慧を司る

その教えは「存続の回避」だった


それを異端者は『堕落』とも呼んだが、我々はこれを『理性』と呼んでいる



或る夜、教会の星視(ほしみ)が人の世の終わりを予言した

恋人の血液を一滴残らず使った血占いの結果で、占術の中で最も精度が高いとされている方法だった


実のところ、教会に属するもの総てが享楽に対し貪欲だったため、本当に滅びが来てしまう事に対しては、当初は一部から反発も予想されていた


しかし、その後の度重なる血占いの結果、「世界そのものが焼け落ちて滅びる」事が明らかになっていき、有様の華美さから、汎ゆる者が最終的には滅びに対し肯定的な態度になっていった



問題は残されていた


「人類が消えたあと、神像は渇いてしまうのではないか?」

この事に関しては多くの者が懸念を持ち、議論を尽くした


結果から言えば、必要から生じた技術の革新が発生し、問題は或る面では解決を視た

具体的には、形而上的な意味での血液循環装置が開発された


起動には教会の人間総ての血が必要だった

必然的に、「この世の終わる日に死の宴を催し、その中で全員が血を捧げて最後を迎える」事が決まっていった


この段階にあってもまだ生への未練を残す者も少数存在はしていたが、彼らにも滅びを止める手立ては無かった

その為、死の宴は全員参加となった

何より、結局のところ教会に携わるものは誰しもが、饗宴を心から愛していた


 


宴の夜が来た

血が酒杯を満たし、子供の肉が食卓に供された

夜空には星々が狂った様に乱れ舞い、大地は千々に裂けて最後の日を祝した


教会から遠くに見下ろす事の出来る大きな街では、大きな火の手が幾つも昇り、そこから聴こえる悲鳴もまた、夜空を破壊せんばかりに響いていた



我々もまた、火を囲んで立っていた


最後の日に際し、我々は教会の広間の中心に大きな炎を燃やしていた


燃料には食材として攫ってきた子供達の、可食部位以外総てを使っている

人間の焼ける時だけに発生するあの香りが、子供達の無念を思わせて甘美だった


我々は全員で炎の周りに立ち、皆で手を繋いだ

教会内には無数の会派があり、必要に応じて流血を伴う闘争に発展する事もあったが、この瞬間に於いては全員が一つだった

その感覚が更なる悦びを引き立てた



饗宴も終わりに近い


誰もが血を初めとした様々なものに濡れていた

服を着ていない者も居た

誰もが、美しかった



その時、短刀を抜き放ち暴れる者が現れた

多くの者が余興かと思ったが、そうでは無かった


少年は教会を「悪魔教団」と罵り、『裁きを下す』と言いながら周囲の者たちを刺し殺そうとし始めた


直ぐに取り押さえられ、略式の聴取が始まった

それは、審問会でもあった


当初は「薬物の酩酊による錯乱だろう」と皆が思っていたが、そうではないことが少しずつ明らかになった

少年は本心から教会を邪悪と信じていた

略式審問会はその瞬間、終了した


『彼の血を用いて神像を濡らす事が最も適切である』という点に於いて満場一致となり、少年はおびただしい人数に取り押さえられながら神像の前まで運ばれた


彼の持っていた短刀が、最も高名な聖者の手に握られる

そしてそれは、ゆっくりと持ち主の躰に吸い込まれていった


その瞬間、誰も何も言わなかった

炎のはぜる音だけが唯一の目撃者であるかの様だった



血が神像を濡らす

如何なる原因によってか、血はけして渇く事が無かった


「奇跡が起きた」

誰もが涙を流した


最早人類が去る事に、誰も憂いは無くなった

私たちは互いに持っていた短刀で互いを刺し合い、血を神像に捧げた


そして夜は終わっていった

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