幕間:痩せぎす聖女
◆side:アーヴィン◆
領主たる者いつかは妻を娶ることになるだろうとは思っていた。
だが、俺の元に嫁いできたのは、世間知らずな元聖女。
聖女というのは、むしろ社交に長けて世慣れた存在だとばかり思っていた。
彼女――シャロンは俺のイメージをことごとく塗り替えてくれる。
初夜の寝室、最初はまともにシャロンの姿を見ることさえ出来なかった。
可愛い白兎とばかり思っていたが、彼女はちゃんと“女”だった。
洗い立ての白銀の長い髪は、近付くと良い香りがする。
兎のふわふわな毛並みとは、まったくの別物だ。
しかし、気付いてしまった。
顔こそ美しい彼女だが、身体は痩せ細ってガリガリだ。
どんな生活を送れば、こんなに細くなる。
貧しいディングリー領の子供でも、もう少し肉が付いている。
仮にも元筆頭聖女がこの地に来るなど、おかしいとは思っていた。
だが彼女の身体を見て、改めて思い知らされた。
シャロンもまた、奴等に虐げられた一人なのだと。
気付いたら、俺はシャロンを抱きしめていた。
先ほどまで緊張と僅かばかりの肉欲に支配されていた自分が、浅ましく思えてくる。
跡継ぎを作るのは領主として大事な仕事だが、今はまずシャロンのことだ。
朝起きたら、温かく栄養のある物を食べさせよう。
いきなり食べさせたら、身体が驚くかもしれない。
消化に良い物を、料理長に作ってもらった方が良いだろうか。
まずは、シャロンが健康的な身体を手に入れること。
全てはそれからだ。
貧しい土地に嫁いできてくれた力ある者を、領主である俺が大事にしなくてどうする。
初夜だの跡継ぎだのは、それから考えればいい。
もっとも――、
同じベッドで無防備に眠る姿に、いつまで我慢出来るかは、正直自信がない。
今も心臓が早鐘を打ち、身体が熱く火照っている。
生殺しとはこのことか……。
幼い頃から様々な仕打ちに耐えてきたが、怒りや恐怖以外でも自制が危うくなることがあるのだと、初めて学んだ夜だった。