冗談で魔法を詠唱したらタイムスリップしたんだが!? ……ってコレ使えば、あいつと付き合える世界線も実現できるんじゃね!?
「時の流れを越え、運命の歯車を再び回す力を我に授けよ」
俺の名前は、桜井翼。
俺は、重度の厨二病である。中二の病だというのに、大学生となった今でも治る気配はない。
「暗黒の力を解き放ち、過去の影を追い求める。忘却の彼方に埋もれた記憶を呼び覚まし、愛する者を取り戻すため、我はこの運命に抗う」
今だって、こうやって漫画にあるかっこいいセリフをそれっぽく詠唱してみている。
漫画みたいにほんとに魔法が使えたら良いのだが……。何千回、何万回やろうが、成功できる日は来ないんだろうな。
「失われし時よ、我が名の下に顕現せよ。タイムリープ! 」
……………………。
「…………………はぁ……」
――まぁ、できるわけないよな。漫画の世界は所詮漫画の世界に過ぎないわけで……。って!?
「な、なんだ!? ――ッ、まぶしっ! 」
「――ん? なんだったんだ? 」
今確かに、急に周囲がものすごい光に包まれたような気がするんだが……気のせいか?
「まぁ、いっか」
一瞬、魔法が成功したのかとも思ったが、ここは何の変哲もない正真正銘さっきまでいた場所と同じ俺の部屋である。
あの光の正体が少し気になるが、どうせ自然現象か、俺が望みすぎて幻想が見えてしまっていただけだろう。
あぁ、そういえば昼飯がまだだったな。そろそろ腹減ったし、コンビニでも行ってなんか適当に買うとするか。
「……………………? ――あれ? 」
コンビニに行こうと部屋を出たのだが、日がとっくに暮れていた。
さっきまで昼だった気がするが。それにいまから昼飯を買おうとしているんだが……。
「――ッ! これは、もしかして……!? 」
俺は、ある可能性に至り、スマホを開いた。
「……………………シャアァァァァァ! 」
すると、やはりと言うべきか、さっきまで8月15日と書かれていた場所には、7月14日という文字があった。
コレは間違いない。俺はついに、魔法が使えるようになったのだ。
こんなこと常識的に考えればあり得ないが、起きてしまっているのだからしょうがない。
俺には元々たぐいまれなる魔法の才能があったとでも思っとけば良いだろう。
問題は、これが連発できるのかどうかだ。もし、何度も使えるようなら、俺はもっともっと過去に戻って、あいつと……愛空と……。
「 失われし時よ、我が名の下に顕現せよ。タイムリープ! 」
「ふぅ……」
ヤバい。胸の高鳴りがヤバい。
例の魔法詠唱をしまくりあの日まで戻ってきた。
中学の時、いや、今でも好きなのあ子。姶良との初デートの日だ。いや、俺がそう思ってるだけであいつからすれば、男友達と二人で遊びに行くだけなんだろうな。
って、噂をすれば来た来た。
「お、おまたせ…… 。ま、まった? 」
――ん? なんだ? あの頃と何一つ変わらない、長くも短くもない髪スタイル。どこかボーイッシュな印象を受ける服装。すべてが同じだというのに、なぜか分からないが、なんか違和感を感じる。
気まずいような、なんて声をかければ良いのか探り探りみたいな。
……いや、気のせいか?
「――い、いや……全然待ってないぞ……。そ、それより、きょ、今日はどこ行くんだっけ? 」
やっば! 人のこと言ってられないぞ、俺。メッチャ違和感ありまくりしゃべり方しかできないんだが! ま、まぁ、それもそっか。こいつとはなすのなんかもはやすうねんぶりだもんな。
「え、えっとね……。きょ、今日って駅に行くんじゃなかったけ?」
――なんで疑問形なんだ? いや、まぁいっか。そうえば、そうだったな。デートに行ったのは覚えていたが、具体的にどこに行ったかまでは流石に覚えていなかったので助かる。
「あぁ……。そういえばそうだったな……。じゃあ、行くか。」
「うん、そうしよ」
……………………。
――すぅ……。ヤヴァイ! どうしよう。駅ってどこにあったっけ?
大学生になり、今ではここ、ふるさとを離れ都会で一人暮らしをしている。数年前まで、完璧に覚えていたここら辺だが、いまでは大分あやふやになってしまった。
「――すぅ……。すまん。駅の行き方忘れた。どこだっけ? 」
「――えっ!? ポンコツにも程があるでしょ」
「アハハ……。すまん、すまん。俺ポンコツ過ぎて忘れちゃったから、案内してくれ」
「べ、別に良いけど……。駅、えき、えき……。あっちだっけ? 」
「なんで疑問形!? 」
「あはは、冗談、冗談。やっぱこっちかも」
「どっち!? 」
「……ごめん。私も分かんない……」
えぇ……。マジで……?最寄り駅の場所を忘れるって……。まぁ、俺も忘れてるから、何も言えないんだけど……。でも、俺はタイムリープアしてるというアリバイがあるわけで……。
ん? まさか、もしかして……。
「なぁ、お前ってもしかして……」
「……ん? な、なに……?」
「――お前もタイムリープしてる……? 」
「……………………」
「な、なんて……。冗談で……」
「――『お前も』ってことは、もしかして……翼も? 」
「え……? まじでお前もしてんの? 」
「――うん」
は!? いや、タイムリープって俺だけの専売特許じゃないのかよ!って、そんなことはどうでも良い。そんなことよりも今は……。
「な、なんで……」
「なんでタイムリープしたのかって? それを聞くなら、先に翼の理由を聞きたいな」
「お、俺はアレだよ。お前との関係をやり直したかったみたいな……。」
「……………………」
「――そ、そういうお前はどうなんだよ」
「わ、わたしは……わたしもそんな感じ……かもしれない……」
愛空は、顔を真っ赤にしながら、聞こえるギリギリの声でぼそっとそう言った。




