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第四話 お金!


馬車の振動が止まった。

それから、ワイセイが関所の兵士と喋り合う声が聞こえ始めた。

どうやら「プロキオン」についたようだ。


街から漂ってくる匂いが、神殿のものとも、草原のものとも違う。

なんというか、清潔だけど人の暖かみも感じる、そんな匂いだ。


「・・・あの、スピカさん?」

「どうした、アヴィ。いつも通りかわいいぞ」

「あ、あはは・・・その、プロキオンに着いたようですし、そろそろ離してほしいなーって・・・」


アヴィはスピカのムキムキの太ももに拘束され、おまけに頭を撫でられながら、軽く文句を言った。


「スピカ、彼女の言うとおりだ。そろそろ離せ」


ソルがアヴィに加勢した。

少しうんざりとしているあたり、こういうことは過去に何度もあったらしい。

しかし、それを聞いたスピカの声色は途端に不機嫌なものに変貌する。


「ソルには関係ない。全てのかわいいものは私に支配される義務がある」


『この人、頭の悪い魔王みたいなことおっしゃってますわ!』


「・・・スピカ、ほら、いつもみたいにフリーマンを代わりにすればよいだろう」

「ちょっ、ソル!? 何言ってんの!?」

「むう、仕方ない」


石堀人(ドワーフ)で身長138センチのフリーマンは、対岸の火事が川を渡って延焼して来たことに驚いた──頃にはもう遅かった。

アヴィはソルの真隣に座っており、フリーマンはスピカに抱きしめられていた。


『本当に目にもとまらぬ速さでしたわね。・・・戦士としての腕は鈍っていないようですわ』


フリーマンの鎧が、スピカの力強い抱擁によってギチギチと音を立てている。

・・・もしかしたら、骨が軋んでいる音かもしれない。


「・・・はあ」


ソルは、「夜泣きしていた赤ちゃんが、ようやく眠った」ときの母親みたいな、疲労の煮凝りのような溜め息を吐いたあと、なにかをいじり出した。


布よりも重厚な音と、小さな金属の塊同士がチャリチャリと擦れる音がし始めた。

おそらく硬貨の入った革袋を掴んでいるのだろう。


「アヴィさん」

「? どうしたんですか、ソルさん?」

「スピカのことは申し訳ない。これはその慰謝料とでも思って、受け取ってくれ」


杖を持っていない、空っぽの手の方にずっしりと重い袋がのった。

袋の大きさは、それこそ片手で収まる程度のものなのだが、それにしては妙に重い。


「そこには金貨が10枚入っている」

「えっ!? う、受け取れないですよ、そんな大金!」


『銅貨4枚で、キャベツ1玉。銅貨100枚で、銀貨1枚。銀貨100枚で金貨一枚と考えると・・・金貨10枚で、キャベツが25000玉は買えますわね!』


レマの言う通り、金貨10枚はキャベツが25000玉買えるほどの大金だ。

1日にキャベツ3玉のペースで消費していっても、22年は生きていける。


だからこそ困る。

私は、傍目から見れば盲目で身なりの良い少女なのだ。

さきほどの盗賊のように話の通じる相手なら良いが、街中で盗人をするやつなどバカばかりだ。


『このままだとアヴィさんは、宝箱を抱えたゴブリン、陽の下の吸血鬼、ネギを背負ったカモですわね』


「まあ待て。プロキオンは治安が良い。だが、少女一人で自由に歩けるほどでもない」

「はい、ですから、こんな大金を持ち歩くのは・・・」

「『冒険者』だ。冒険者を雇い、アヴィさんの護衛にすればいい。金貨は、その雇い入れの為に使ってくれ」


『冒険者』。

基本的には町一つに一つ設置されている、「冒険者ギルド」に所属して活動している、「何でも屋」だ。

まあ、実のところ冒険者が、実際に冒険をしていることはあまりない。


『昔の英雄が世界各地を冒険して得た富を使って、冒険者ギルドの前身となった組織を立てたことにあやかって、「冒険者ギルド」と呼ぶそうですわよ』


「そういうことなら・・・頂きますね。ありがとうございます」

「いや、礼を言う必要はない。もし貴女が来てくれなかったら、僕達はここに立ててすらいなかったんだから」


本当に優しい人だ。

いよいよもって、魔族が悪という考えはただの偏見だとしか思えない。


「アンタレス、僕は彼女を冒険者ギルドまで送る。それまで頼めるな?」

「ういうい! なぁんとかやっとくね!」


どうやらソルは、エスコートまでしてくれるらしい。

もうこの時点でそこらの人間の何倍も気が利いている。

絵物語の王子様のようだ・・・いや、それは流石に言い過ぎだったかもしれない。


アヴィは、馬車の中でこけないようにゆっくり立ち上がりながら、金貨の入った革袋を革のベルトで腰に固定する。

すると、革袋を持っていた左手が空いたことを見計らって、ソルがその手を握った。


「足元に気をつけて。段差があるからね」


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