第三話 太陽
「すまない、仲間に治癒魔術を施してもらえないだろうか。助けてもらった立場で、烏滸がましいことを言っているのは分かっている。けど・・・」
レマいわく黄金の角と瞳を持つらしい青年に話しかけられた。
なにか布の擦れる音がするので、多分、包帯を巻きながら話し掛けているのだろう。
だが、残念なことに──
「私、治癒魔術が使えないんです・・・」
「ゔぇっ!? う、ウっソぉ、上級神官でしょぉ!?」
『今話しかけて来たのは、髪、牛みたいな角、瞳、その全部が赤色の・・・20代女性ですわ。・・・無駄に乳がデカくて腹が立ちますわね』
「あっ、上級神官だっていうのも嘘です」
「あぁんたウソまみれじゃぁん!」
方法はひとまず置いておいて、少なくとも彼らを助けたのは私なのに、酷い言われようだ。
私は神殿を出る前に回収した、薬草で出来たマスクを差し出す。
「このマスク、薬草で出来てるので・・・これでどうにか・・・」
「なんっ・・・なーんかその言い回しだとアタシらが悪いやつみたいじゃーん!? ごめんてぇ、言い方悪かったよぉ・・・じゃあ、有難くマスクもらいますぅ!」
「ちなみに、そのマスク使用済みです」
「なぁんでわざわざそれ言うのぉ!?」
どうやら喋り方が大袈裟なだけで、この赤い髪の女は悪い奴では無さそうだ。
「おい、今から薬草体に刷り込むけどいいねっ?」
「ぅ・・・ん」
『赤い女に薬草を塗りこまれて、体を包帯でグルグル巻きにされてるのは・・・石堀人の男、武器がなんでしょう・・・大砲とブーメランを溶接したみたいな・・・なんか変なやつですわ!』
石堀人。
魔族の存在は知らなかったが、この種族に関しての知識なら持っている。
基本的な身体構造は人間と同じだが、身長の成長が140センチ程度で停止する小柄な種族であり、金属を操る魔術を生まれつき行使できる特徴をもつ。
「あ、言い忘れてた! アタシん名前は『アンタレス』、こっちの包帯バカが──」
「ど、どうも・・・『フリーマン』って言いま──あだだだッ!? 痛いよッ!? バカッ!」
「はいごめぇんごめーん、ごめんなさぁーい。んで、あっちで馬を撫でてんのが・・・って分かんないか。ごめん・・・」
性格がガサツなのか繊細なのかあまりはっきりしない、赤い女──アンタレスが、申し訳そうな声を上げた。
その裏でのたうち回っている男がフリーマンという名らしい。
先程まで死にかけていたのに、薬草を塗りたくるだけで速攻治るあたり、かなり体が頑丈なようだ。
全員の名前を覚えられるか、少し不安になってきた。
「なんとなくはわかるので、名前と一緒に外見情報も教えていただけませんか?」
「なんとなくは分かんだ・・・すごいじゃぁん! じゃ、あっちで馬ぁ撫でてる、動物以外に興味を持たない、黒髪黒目のジジィが『ワイセイ』ねー。いちおー魔族なんだけど、昔の戦争で角を抜き取られてるから、見た目はほっとんど人と一緒。性格が穏やかの権化みたいなやつだから、気楽に話しかけたってよね」
『少なくとも、外見情報にウソはありませんわね』
「で、馬車の傍で休憩してるのが、青髪青眼の美少女、スピカちゃん!」
「・・・誰が美少女だ」
苛立ちの混じった、気だるげな低い声が聞こえた。
「・・・ま、聞いてのとーりカッタぁい性格。昔に右目を戦いで失くしちゃってて、それ以来は剣を持つのも辞めちゃっててさ。アタシは好きだったんだけどナー、あんたの大剣裁き!」
「知らん、好きに言え、もう剣は使わん、なんだあのアホ専用の武器は、魔術の方が強いんだから剣を振る意味なんて無いだろうが」
「なんか急に拗ねちゃった・・・」
『こちらも嘘はなさそうですわね。ただ、「今は剣を使っていない」というのは少し怪しいですわね。見惚れそうなくらい綺麗な筋肉が、かっなりしっかりついていますもの』
「で、盗賊と戦ってくれたのが・・・」
足音が近づいてくる。
鎧の擦れる音をかなり小さくして歩けているあたり、戦士としての実力は高い・・・と思う。
「ソルだ。色々と・・・ありがとう。そういえば、あなたのお名前は・・・?」
「アヴィです! プロキオンに向かってる途中であなたたちのことを見かけた・・・感じた? ので寄って来たんですけど、助けられてよかったです」
「ああ、プロキオンに向かっている途中だったのか。僕たちもプロキオンに向かっている途中でな。礼もかねてだ、僕たちの馬車に乗らないか?」
「乗りたいです! 乗せてください!」
「良い返事だ。じいやー!? 修理は終わったかー!?」
少し遠くで「はいはい! もう終わらせてますよー!」という元気な老人の声が聞こえた。
おそらくこの声の主が『ワイセイ』だろう。
「それじゃあ、いこうか」
「はい!」