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第二話 夜を渡る


私は神殿を抜け出した。

世界の外に出るなんて怖くてたまらなかった。

が、実際に出てみると、思った以上になんともなかった。


「私のいた場所(せかい)って、自分が思ってた以上に狭かったんですね・・・」

『まあねえ。大きさとしては、並の城塞と同じレベルですから』

「はあ、そうなんですね」


私は城塞の大きさを知らないし、盲目が故に直感的に理解できるようにもならない。

出来れば、そういう例えはしないでほしいものだ。


「風が気持ちいいです・・・!」


神殿の中は、聖水だとか儀式用のワインの匂いでいっぱいで、「魔力が抜ける」から、扉や窓もあまり開かれることが無かった。


新鮮な空気と、どこからかの知らない香りを運んでくる風。

これが本当の「世界」らしい。


「うーん、しくじりましたね。杖がべとべとです」

『アヴィさん・・・どうして両手がべとべとなんですの?』

「揚げパンを食べてました。祈祷前に」

『貴女が回復魔術を使えなかった理由、死体に祈らされてたからじゃなくて、その無茶苦茶な態度が原因じゃないかしら・・・』

「神様は我が儘ですね」

『・・・だとしたら神様とアヴィさんは気が合いそうですわね』

「そうですかね?」


あまり彼女?の言いたいことが分からなかったが、多分褒めてくれたんだろう。


「そういえば、貴女の名前はなんですか? 聞きそびれてました」

『あら、また言っておりませんでしたわね。お聞きなさい!』

「はい」

『私は、「レマ・イオヴァーシ」ですわ!』

「可愛い名前ですね!」

『そうでしょう? お父様が──』

「でも覚えずらいです」

『無礼ですわね! あなたどんな教育を受けてきましたの?』

「なにも受けれませんでした」

『じゃあ・・・しょうがないですわね』


神託あらため「レマ」と、そんな他愛もないことを喋りつつ、杖を振り回しながらしばらく歩いた。


レマの話では、このまま直進すれば、「プロキオン」という小さいが治安のいい街に着くらしい。

一応、少し右にそれれば「アリオト」というプロキオンよりも大きな町があるが、そちらは治安が良くないからおすすめしない、とも言っていた。


「・・・血の匂いがする」

『奥の方で馬車が襲われてますわね。・・・悲しいけれど、迂回した方がよろしいのではなくて?』


いくつか硬い──金属がぶつかる音が聞こえる。

襲う側、襲われている側ともに鎧を着ているのだろう。


(ということは、襲撃者は盗賊ではなく兵士崩れだな。それなら「話し合い」で解決出来そうだな)


『相手は16人。全員程度に差はあれど鎧を着こんでいますし、統率も取れていますわ。対して、馬車側は5人、うち戦闘員は2人で、しかも1人は怪我で横たわっていますわ。一応、息はしているようですけれど・・・厳しそうですわよ?』

「それなら早めに『話し合い』を終わらせないといけませんね」


『(アヴィさん、私が思っていたよりも頭が回りそうですわね・・・知識と礼は欠けていますけれど)』


戦闘音が止んだ。

目を包帯で覆っている、しかも()()()()()()()()少女が近寄って来たのだ。

戦闘を中断してでも、警戒をしたほうがいい。


「おい嬢ちゃん、武器がぶつかる音くらいは聞こえてたろ? 今取り込み中なんだよ、帰ってくんねえかァ?」


低く、そして籠った声だ。

どうやら、私に話し掛けて来た男は兜を被っているらしい。


『今話しかけて来たのは、重鎧の、金で装飾された大きな両刃斧を持った大男ですわ。武器が襲撃者の中で一番派手なあたり、彼がリーダーだと思いますわ』


レマの発言の後、一息置いて、息絶え絶えの少年の声が聞こえた。


「あ、あなたは・・・神殿の人か・・・?」

「・・・はい、そうですよ」

『こちらは軽鎧、武器は片手剣で・・・十代の青年ですわ。あと、この青年──


──魔族ですわね』


「マゾク?」

マゾク。

なんだろう。

マーマレードの親戚とかなのかな。


「あん? 嬢ちゃん目が見えてんのか? それなら話が早ェ! こいつはな、魔族なんだよ! 魔族だから俺はコイツを殺してもいいし、そこの馬車から物を奪ってもいいんだ。分かったなら、回れ右して帰んな!」

『・・・もしかして、アヴィさん、魔族って言葉の意味を知りませんの?』

「そう・・ですね」

「おう、聞き分けの良いガキは嫌いじゃねェ! 帰りな!」

「私、知らないです・・・」

「それはどういう返事だい?」


勝手に困惑している大男は置いておいて、レマに「マゾク」とはなにか、解説してもらおう。


『魔族というのは、昔に人間の国を幾つも滅ぼした種族で・・・国から直接、()()の許可が出ているんですの。基本的な身体構造は人間と同じなのですけれど、人間と違って頭から角が生えているのですわ』


「この人にも角が生えてるんですか?」

「な、なにィ当たり前のこと聞いてんだァ?」

『そうですわ。青年の瞳と同じ、黄金色の10センチくらいある角が生えていますわよ』

「へー・・・盲目の私には関係ないですね」

「「なんなんだコイツ・・・?」」


青年と大男の声が綺麗に重なった。

デュエットが出来そうな位綺麗な響きだった。


「少し、長話をしてしまいましたね」

「脈絡なかったけどな」

「こほん! ・・・ところで、私の名前を言い忘れていました」


少し無駄話をしすぎた。

そろそろ「話し合い」を始めるとしよう。


「私はシリウス、これでも上級神官です」

「上級神官だと!?」


上級神官。

この役職のものは、その場にて魔術的な「裁判」を行う権限を持つことが出来る──とシリウスから教えて貰った。

つまり──


「──貴方のこの略奪行為を見逃してあげます。ですから、その代わりにどこか遠くにいきなさい」

「・・・悪くねェ話だ」


上級神官は、聖女と同じく治癒魔術が行使できる他、国の軍とやり合えるほどの攻撃魔術が行使できるものしかなれない。

大男は「上級神官の言うことに逆らって殺されるよりも、見逃すって言ってるんだし逃げよっかな!」と考えているはずだ。


「嬢ちゃんが本物の上級神官なら、の話だが」

『・・・ふっつうに嘘がバレましたわね』

「大丈夫ですよ、証拠ならあります。どうぞ」


私は目の前に居ると思われる男に杖を差し出した。

両手から杖の重みが離れる。


「・・・なるほど。杖がみょォ~にべとべとなのは気になるがァ・・・きちんと、嬢ちゃんのSⅰrⅰus(シリウス)って名前も彫ってある。信用しよう」


神官の所有する道具は、その神官の「権力」を示しており、

それに由来して、他人に安易に使われることを防ぐために、名前を彫ってあるものが殆どだ。


「それでは、後は私にお任せくださいな」

「あァ・・・二度と会わねえことを願わせてもらうぜ。野郎ども、ずらかるぞ!」


「へい!」という威勢の良い複数の声とともに、足音が遠ざかっていった。

どうやら、最後まで上手く騙し切れたようだ。


『心が強いですわね。自分を騙した女の名前を使うなんて』

「使えるものはなんでも使うべきです。嫌いなものだとしてもね」


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