十八話 火を見るよりも明らか
訂正
第十六話にて「──17年前」との表記を行いましたが、正しくは「──24年前」です。
メイの今後について、父とアダラ様が話し合った一週間後、屋敷に教師が来た。
教師と言っても、勉学についてではなく、メイと私に魔術を教える教師だ。
教師の名前はデネボラ。
少し白髪の混じり始めた、50代の男。
老いが理由なのか、はたまた、日々の苦労が積み重なった故か、どことなく情けない顔をしている。
「ウルフェスト卿の師をしておりました、魔術騎士のデネボラと申します。メイ様、スピカ様。本日より、よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
魔術騎士。
騎士の中でも、剣術と魔術の両方をかなりの練度で使いこなせるものにしかなれない、一騎当千の騎士だ。
王族を守ることが主な仕事のため、「王の盾」と呼ばれることもある。
「ほら、メイ」
「・・・よろしくお願いします」
メイは静かにデネボラに怯える。
デネボラ様の「本日より──」という言葉のとおり、彼は「メイが魔術を使いこなせるようになるまで」というかなり長くなるであろう期間を、ソーオリオン家に住み込みで教師として働くのだ。
長い付き合いになる彼を警戒されるのは、色々と困る。
デネボラ様もメイの警戒を解こうと、優しく微笑みかける。
だが、メイは服の裾を握って、私の影に隠れてしまった。
「・・・このままお願いできますか?」
「ええ、構いませんよ。始めましょうか」
そこから3時間、デネボラ様からの厳しい手ほどきが続いた。
剣の振り方や構え方といった基礎的な部分から、その基礎部分をこなしながらの魔術の使用の方法まで、かなり様々な事を教えてもらった。
そして、分かった事がある。
「スピカ様・・・その・・・」
「私にはないですね! 魔術の才能が!」
「に、にこやかですな」
私には魔術の才能が無かった。
健康になっただけで魔術が発動するほどに才能があるメイに対し、全くと言っていいほど才のない私。
同じ親から生まれたとは思えないような差がある。
「ですが、剣術の才能は申し分ありませんな。既に私を越えているかと」
「そうなのですか?」
適当な小石を空に放り投げ、それを木剣で千切りにする。
細い針状になった石が私の手のひらに落ち、馬の寝床のようになった。
「ほいっと。いかがですか?」
「いかがも何も、私には到底・・・魔術を使っても同じことは出来ぬでしょうな。これ、金属にも同じことが出来ますか?」
「出来ます。流石に鉄剣でなくては厳しいですが。木剣だと成功率は3割まで落ち込みますね」
「3割!? 木で鉄を、3割で千切りにできる・・・? ・・・スピカ様には魔術なぞ必要ありませんな。魔術はあくまで強くなる方法の一種ですから」
「そうですか・・・。なんというか、少し安心しました」
幼い頃から、メイや両親が喜ぶ姿を支えにして研鑽し続けた剣術。
その剣術が、この国でも最高峰の男に認められた。
「魔術を使える」という理想よりも幸せな現実に、頬が緩んでそのまま落ちてしまいそうだ。
「わたしも剣がいい・・・」
「言っただろう、魔術をきちんと頑張れば、剣術も教えてあげるって」
「今おしえてほしい・・・」
「え、ええ・・・ほ、ほら。このデネボラ様は魔術も剣術も使いこなせるすごい人なんだぞ。メイもこの人みたいになりたいだろう?」
「やだーっ! わたしこんなおじさんになりたくない!」
「おじッ──!?」
スピカの剣撃よりも鋭い言葉の刃を受けて、デネボラ様は気絶した。
結局、訓練が再開したのは3日後だった。
私は魔術の才能と剣術の才能、二つの点から訓練の必要無しとの判断をもらったため、しばらくは休み──のはずだった。
メイがデネボラ様に微塵も心を開かないため、父に「頼むッ! 誕生日にいつものプレゼントに追加で馬を買ってあげるから!」との交渉付きで付き添いを頼まれてしまったのだ。
「ではメイ様、本日の訓練を始めます」
「はい・・・」
「とりあえず、メイ様の魔術を見せていただけますか?」
「・・・うん」
メイはずっと不服そうだが、一応デネボラ様の言うことを聞いて、魔術を発動させる。
小石が地面から離れ、ふわっと浮かび上がった。
私も、拳で地面を殴れば石を跳ね上げて浮かべたりできるが、メイの魔術とは違ってすぐに落ちてしまう。
魔術を扱うとはどんな感覚なのだろうか。
大切な妹のメイへ、えもいわれぬ気持ちが芽生えた。
メイはデネボラの指示を受けて、浮かべた小石を遠くに飛ばしたり、手前に寄せたりしているが、表情は相変わらずだ。
流石に可哀想で見ていられないので、気分の上がる提案をするとしよう。
「メイ。次は剣を浮かべてみるのはどうだ?」
「剣?」
「剣を浮かべて、私が振るうときのように動かせばいい。そうすれば、メイも剣術を使えるじゃないか」
「え、やる!! やっていーい?」
「ええ、構いませんよ」
デネボラ様に許可を取るあたり、メイはデネボラ様のことを教師としては認めているらしい。
小石と全く同じ動きで、木剣が浮かんだ。
「えーい!」
見えない誰かが握っているかのように、木剣が斬撃を繰り出す。
風切り音も聞こえない下手な動きだ。しかし、その剣の主が10歳にも満たないことを考えると、充分に「才能がある」と言える。
「姉様! 剣に石なげて!」
「ん、いいだろう」
私は軽く石を投げた。
それこそ、メイが目で捉えることが出来る程度の球速で、だ。
「えい!」
浮かんだ木剣が、石を千切りにした。
「できたー!」
「す、素晴らしいですよメイ様! 見ましたかスピカ様! あの動き、まさにスピカ様の動きと瓜二つです!」
「あ、ああ。そうだな・・・」
追い付かれた。
今の一瞬で、私の7年の研鑽に追いつかれた。
(魔術は成長すると言っていた・・・じゃあ、これからメイはどうなるんだ? この斬撃が出来る木剣を、複数浮かばせたり・・・? そうなったら、私はどうなる? 私は・・・)
1本の剣が他の人より上手く扱えるだけの無の──思考を閉ざした。
これから私に訪れる未来は、火を見るよりも明らかだというのに。
久しぶりに書いたので、文体がおかしいかもしれません。
誤字がありましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。




