第十五話 見る目のない女
洞窟のゴブリンを殲滅してから数日、アヴィは休みをもらっていた。
おかげで、神殿を脱出してからずっと働いたり、考えたりしていた状態から解放され、かなりリラックスすることが出来た。
そして、リラックスをすると、今までどうとも思わなかった事柄が気になってくることが多い。
今のアヴィが、それに特に当てはまる。
(レマさんって、何者なの?)
シリウスのことばかり気にしていたが、一番気にするべきだったのはレマだったのかもしれない。
まず、どこにいても声が聞こえるのがおかしい。
しかも、声を聞けるのはアヴィただ一人。周囲の人間が聞き取ることは不可能。
(魔術? いや、もう5日は起動しっぱなしですし・・・術者が居るタイプの魔術なら、術者はとっくに魔力切れを起こして気絶しているはず)
魔道具である可能性もない。
魔道具は単純な魔術を簡単に連発できるのが、逆にそれ以外なにも出来ない。
魔道具内の魔術回路が混線してしまうため、複数の魔道具を接続して、複雑な魔術を発動するといったことも不可能だ。
(私が神殿を追い出される、その瀬戸際の日に現れた、ってところも不自然だし・・・)
アヴィは目を覆う包帯に触れる。
もし、自分が盲目でなければ、レマのその姿を把握できたかもしれないと思ったからだ。
(あー・・・ダメだな。自分のことを助けてくれた人のことを疑うなんて・・・最低だ)
少し、気分転換をしよう。
包帯の洗濯でもすれば、気も晴れるだろう。
アヴィは後頭部に手を回し、短い髪の毛をどけながら、包帯をほどく。
『ひッ・・・!?』
レマの短い悲鳴が、アヴィの頭の中に反響する。
なにか怖いものを見たというよりは、予想外の事態に対する驚きの色が強い悲鳴だった。
『あっ、アヴィさん? 痛くはないのですか?』
「痛い? いえ、どこも痛みませんよ? 今朝もスープを飲んで、元気です!」
『え、ええ。私も食べたくなるくらい美味しそうなスープでしたわね。そうではなくて──』
『──眼球が綺麗に抉り出されていますが・・・大丈夫なのですか?』
「がんきゅー? サンキューなら知っていますよ」
『そ、そうですか。それは良かったですわ』
なにが良かったのかは分からないが、特に気にすべき程のことでないようで良かった。
アヴィは近くに立て掛けた白杖を手に取って、外に出る。
「メイはどちらに居ますか?」
『えっと・・・アヴィさんから見て、右に45°、10メートル先ですわ』
アヴィは小さく息を溜めて、軽く叫んだ。
「メイさーん! 包帯の洗濯をしてもいいですかー!?」
「いいぜー! そういや服は洗濯してたけど、包帯は洗濯してな・・・・・・・・・・・・・・」
メイの声が止んだ。
レマの時もそうだったが、自分が包帯を外している姿はそんなに醜いのだろうか。
シリウスは「んもぉ世界でいっちゃんカァイイッ!!!」と評してくれたが、あれは身内のひいき目というやつだったのかもしれない。
「大丈夫ですかー!?」
「大丈夫じゃねぇかもォーッ!?」
アヴィにとって「瞳」とは、「なんかみんなが持ってて、色が付いてるやつ」というレベルの認識です。
なので、「瞳」=「眼球」って等式が彼女のなかにはありません。




