第十四話 命とお金
メイは魔道具を使用して、ゴブリンの洞窟──だった場所の近くに簡易的な拠点を生成。
そこにあるベッドに魔族の親子を寝かせる。
柔らかいの「や」の字もないくらい硬いベッドだが、床で寝かせるよりはマシだろう。
アヴィは、これまたメイに作ってもらった椅子に腰かけながら、ぼーっと考える。
(ゴブリンを殺した。殺せちゃった)
本当に今更ながら気が付いたが、自分は物事を勢いで行うことが多い。
また、神殿から脱走した時のように、その勢いに後悔する事も多い。
そして、これは今回のケースも例外ではない。
(あんなに大きな魔物を、あの速さで。・・・人間相手なら、もっと簡単なのかな)
ゴブリンが人型の魔物だったせいで、嫌な方向に意識が散ってしまう。
神殿を出るまで、他人の力を借りなければ何も出来ない無能だった。
だが、言い換えれば「無害」だったのだ。
そんな自分が、人を殺す力を持っている。
「ふぅー・・・」
『お疲れ様ですわ! 金貨を打ち出してのあの10連撃、中々の威力と精度でしたわね。とても魔術を習得して数日とは思えませんわ!』
「それは・・・よかったです」
レマからの褒めの言葉が、今は辛い。
『なっ、そんな他人行儀で評価を受け取ってどうするんですの? これは「貴女」と「貴女の力」に対する評価なのですよ? 他人の力を自身の力として振るうのとは違う、「自身の力の手綱をきちんと握っている」という事実は誇るべきですわ!』
(自身の力の手綱・・・)
確かに、レマの言う通りだ。
この <星に触れる手> という魔術を行使しているのは、ほかならぬアヴィ自身なのだ。
この力を持っているのはアヴィであり、この力の使い道を決めるのも、またアヴィ自身なのだから。
「・・・ありがとうございます!」
『んお? な、なんの話でして? まあ・・・元気そうで何より、ですわ!』
レマとの対話が終わったタイミングで、魔族の親を寝かせた方のベッドが、ガタガタと音を立てた。
どうやら、父親が意識を取り戻したらしい。
父親は痛々しい呻き声を暫くこぼした後、アヴィとメイの方に向き直った。
「私たちを助けて下さり、本当にありがとうございます・・・私の名前は『オルト』、娘は『ラウ』といいます。もしよろしければ、お二方の名前をお聞かせ願いたく・・・」
「オレがメイ。こっちがアヴィ。オマエのことを助けたのはアヴィだ。礼を言うならアヴィだけにしておけ」
「は、はい! アヴィ様、本当にありがとうございます・・・!」
「様付けは必要ないですよ。私は私のやれることをしただけです。ね、メイさん」
「わ、悪かったよ・・・」
高難易度のクエストを騙して受けさせたことを、なんだかんだ申し訳ないと思っているらしい。
人並みの倫理観があるなら、何故こんな無茶を言ったのか。
アヴィは呆れ混じりの声で、メイに話の主導権をパスする。
「んで、なんでオマエらはあんな洞窟に? ゴブリンは縄張り意識が強い。しかもあの規模の洞窟だ、かなり前からあっただろ。あの洞窟付近が危険だってことは、最初から分かってたと思うんだが?」
「それが、あの付近にしか生えない薬草がありまして。私1人で取りに行ったのですが、気が付かない内に娘が私のことを追っていたようで。それで、あのような状況になってしまいました」
「なッるほどなァ・・・」
がたんと音を立てて、メイが椅子に座り直す。
すると、何かに怯えたように、父親──オルトが息を潜めた。
『メイさんは驚くほど目つきが悪いですから。こーんな怖い顔の人に見つめられながら、説教じみたことを言われたら誰だって怯えますわよ』
「メイさん。威嚇しちゃダメですよ」
「威嚇ぅ!? してねえよ! ・・・ところでオマエ、金に余裕はあるか?」
「へっ、はっはい! あります! どうぞ!」
「誰が寄こせって言ったよ。あー・・・その薬草の採取、冒険者ギルドにクエストとして依頼しろ。オレの勘だが、この辺はあの規模の洞窟がゴロゴロある。だから・・・」
「『私がかわりに採取してきてあげるから、危険な事はしないように』ってことですか?」
「そうそれ! オマエ話要約すんの上手いな! ・・・で、どうすんだ? 次、またオマエらに今回と同じような事が起きた時、またアヴィみたいなのが助けに来てくれる保証は無いんだぜ? どォすんだ?」
どことなく脅しじみた言い回しのメイの言葉を聞き、少しの間オルトは考え込む。
それから、第三者からでも緊張が見て取れる声で、オルトは口を開いた。
「・・・私たちは魔族です。魔族の依頼を、あなた達は本当に受けてくれるというのですか?」
『おそらく警戒をしているのでしょうね。依頼を出すときは、その依頼がどこの誰から出されたものかを明記しなくてはならない。そこを逆手にとって、彼の住所を知り、彼の住む村だとか町だとかに騎士団を送り込み、滅ぼす。そういう手段を、ね』
魔族と人間の確執は思った以上に深いものらしい。
それこそ、自身と娘を助けてくれた者達の言葉を、信用できなくなるくらいには。
「・・・魔族の依頼を受けると、なにか罰せられるんですか?」
「い、いえ。そういうわけでは。ただ、人間と魔族はずっと相いれないものというか・・・」
「なら、私に直接依頼してください。それなら冒険者ギルドに情報が漏れたりもしないですよね?」
「ああ。どうする、オルト」
「・・・そうさせていただきます! これからよろしくお願いしますね、アヴィ様!」
「いや、様は必要ないと・・・まあ、いっか」
「(やっぱり、人相が良い方が信用してもらえるみてぇだな・・・)」
図書館で、啓発本を読んだんですよ。
適当に取った1冊目には、「人間は中身が9割!」って書いてあったんですよ。
で、2冊目に手をかけて、読んでみたら「人間は外見が9割」って書いてあったんですよ。
どういうことなんでしょうか。
ウミガメのスープみたいですね。




