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8. 家のため、国のため、証明のため、貴方のため。


その作戦を思いついてからの私の行動は、

はやかった。



ウィン様をしあわせにするため。

ウィン様を自由にするため。

聖女として人々を救いつづけるため。

そのために、ざまぁを回避するため。



「ミラ……本当にいいの……?」


「はい、やっと恩返しできると思うと、

本当に嬉しく思いますわ。お母様。」


優しく私を抱きしめる、美しくてほがらかなお母様。


「……少しでも違和感を感じたら、

必ず断るのよ……?約束してくれる……?」


「……はい。お母様。」



「奥様、お嬢様、

キャルタン公爵家ご嫡男、ギルベルト様がおこしになりました。」



キャルタン公爵家

この国の公爵家でありながら、

まるで他国の要人のような扱いをうける公爵家

他のついづいを許さない外交の強さと、

全ての領地が国境に面している辺境の守り神と称えられる私兵団の強さから、貴族達はもちろん、王族にすら一目をおかれている一族


その嫡男であるギルベルトは、

若くしてキャルタン公爵家全ての私兵団員を統率し、

戦争に縁のないこの国も守りながら、

最高戦力として他国の戦争で数々の戦果をあげる武人。


今日は、そんな彼との、いわゆる お見合い というものだ。


そう、これから私は、

この ギルベルト・キャルタン公爵令息 と

婚約を前提とした顔合わせをする。



聖女の力を利用して更なる戦果を求めているのであろう婚姻の申し出は、私がナレリシア家に引き取られてからずっと続いている。

戦地だろうと、求められれば駆けつける私が

そんな彼の元に嫁ぐことを心底心配した両親と兄が

何度もかわしつづけた申し出だったのだが、

実はこの婚姻は、ナレリシア家ひいては、

この国に実に有益なものなのだ。


というのも、

他国と深い結びつきのあるキャルタン公爵家が

一言王座を望もうものなら、あっという間にこの国を武力によって制圧されてしまう。

それを恐れ、現王は腫れ物のようにキャルタン公爵家を扱い続け、それをいいことに他国がキャルタン公爵家を盾に理不尽な要求を突きつけてくることが多くなり、大きな問題となっていた。


それを緩和させ、力関係を安定させたのが、

ウィン様のつくりだした大魔塔宮殿とそこからはじまる魔法の進歩である。


しかも、最近新たな問題が浮上しつつあるのだ。


それが、この国を支配下におきたい魔法軍事大国であるジャナ皇国の王女と、ギルベルト・キャルタン との婚約が締結されそうなのだ。


これが締結されてしまうと、

キャルタン公爵家と王家との均衡があっという間に崩れてしまう。


正式な申し出がキャルタン公爵家に届く前に、

この国の王家に忠誠を強く誓う家との婚約をまとめ、

キャルタン公爵家は中立・現状維持をアピールしたいのだ。


そして、あろうことかこのギルベルト、

余程 聖女の力が欲しいのか、

私以外の、条件に当てはまる全ての家のご令嬢を、

つかえる全てのツテを駆使し、他国の貴族や王族と婚約させたのだ。


そして、圧倒的好条件(加えて脅し)を

ナレリシア家に突きつけてきたのである。



「久しいな? ミラ」


「お久しぶりですわ。ギルベルト卿 」


「未来の旦那様に、それはないだろ!ミラ!」


ケタケタと笑いながら、

近づいてくるギルベルト


少し癖のついた漆黒の髪に

血のように赤く ギラギラとした瞳

白い肌はそれらをより一層の強く引き立てる

おそろしいほど整った顔と、屈服してしまいそうな強く華やかなオーラ

強靭な肉体と、戦場に身を置く漢としての立ち居振る舞い。まるで、戦の神…いいや戦場の覇者、王。


「ギルベルト様の貴重なお時間を いたずらにいただくわけにはいきませんわ。 本題に入りましょう。

条件をお教えくださいますか?」


そう、あなたが私に課す、婚約の条件



「…条件? とくにねーけど。

あ、俺を愛せよ。心からな。それが唯一の条件だ」


ふっと笑うが、妙にそれが色っぽい


……はい?


「…お戯れを。 」


顔を引き攣らせて笑う私をみて

くくくっと楽しそうに笑うギルベルト


「ミラ。おまえ、まさか俺が政略結婚でおまえを嫁に寄越せっていってるとでも思ってんのか?」


あはは!と声を出して笑う


「ばーか! 俺はそんなに安くねぇよ

おまえに惚れてる。だから嫁にしたい。それだけだ!」


あー笑ったといいながら、

当然だろ?といいたげな顔をしてこちらを見つめるギルベルトに、驚く


「……え?」


これは、キャルタン公爵家よりも、

ナレリシア家と我が国に利がある婚約。

キャルタン公爵家は、別の道をいくらでも選択できるのだ。

そんな中で、彼なりに、キャルタン公爵家なりに、

聖女である私に利用価値を見出しての申し出と、いっすんも疑う余地なく考えていた。


そして、私自身、

ウィン様とアダリンに、危害を加えるつもりなんてないよーと証明できて、

なにより国のため、ウィン様のため、

私なんぞの身一つで役に立つのだと。


キャルタン公爵家が、聖女の力を何に求めてきたとて、ウィン様ひいては国のために、ナレリシア家のために、身を粉にして働くぞ、そう考えていたのだ。



それが、なに……?

俺を愛せ……???




「む、難しい……かも……ですわ、それが1番……

というより、唯一……」


その言葉をきいて、ギルベルトは目を丸くした


「……っはは! ひでぇな おまえ!」


子供みたく楽しそうに笑いながら、

こちらへ近づいてくるギルベルト


頭にぽんっと手をおき、

心底愛おしいというような目で、柔らかく微笑む


「安心しろ。ぜってぇ、惚れさせてやる。」





こうしてこの日、

予想外の課題をたずさえた婚約者ができた。




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