6. 折ります。攻略対象者とのフラグ。
怒涛の1日を終え、
いとも容易くウィン様におとされてしまった私
想うだけならセーフだよね?!
距離、そう、距離をおこう!
そしてこれ以上、あの沼みたいなスパダリイケメンに惹かれることのないよう、自制しよう……!
とかたく、そりゃあもう、ほどけないようにかたーく決意をした。
まさかそんなさなかに、
その決意をさらにかたくする出来事がおきるとは。
「な、なぁ!……そのっ、これ……やるよ……」
……え?なに?だれ?どちら様?
しかもなんで強い口調のくせして、照れてるのだ
ツンデレか?ツンデレなのか?
「……えーっと、」
「さっきの授業で…俺が答えられなかったとこ…
さりげなく助けてくれただろっ……礼だよっ……」
そ、そんなことあったかな
あったとしたら、無意識すぎて覚えてもない…
そして差し出されているのは、
彼のツンとセットされた髪、燃えるような瞳と同じ、赤い色の彫刻のような髪飾り
この国では、
自身の色を纏わせる=最愛の人、俺のものだ
という愛情表現といわゆるマーキングのような意味合いがある
そういう意味での、お礼だとしたら、
お、重くね?
と、とことん引いている次第である
「お礼だなんて…
お名前もまだきいていませんのに、
そんな麗しい彫刻の髪飾り…頂けませんわ 」
では、と軽く会釈をして去ろうとした、
が、
「ティメオ・ターキン!
ターキン伯爵家の長男だ!父はターキン伯爵 騎士団長だ」
ターキン伯爵家といえば、代々優秀で忠実な騎士を輩出する名門貴族
……ん?
もしや?
騎士団長になるであろうイケメン
ちょっとした優しさですぐヒロインにおちるチョロさ
こ、攻略対象者、かなぁぁぁ……
うわぁ、絶対そうだ…
私、誰彼構わずたぶらかして、ハーレムエンド!
みたいなの、1番きらいなんだよな…
不誠実だし、そんなことしてれば普通は反感を買うものだ。
しかも今の私は、ちょっとしたヒロインムーブにも気をつけなくてはならない。
火のないところに煙はたたない なんて、
誰が言ったのか。
なんてったって、私にはあのアダリンがついている。
彼女は、水の中にすら炎をたたせ、その周りでキャンプファイヤーなんてしてしまう。そんな女だ。
隙などみせてはいけないのだ。
「ミラ・ナレリシア。
父はナレリシア侯爵にございますわ。
わたくし、かなりの人見知りですの。
今後はそっとしておいてくださると幸せですわ。」
よし。これでよし。
捨てられた子犬のような顔をしているティメオに
心の中で謝罪をし、その場を離れる。
ドンッー
「わ!ごめんね?大丈夫?
…って、きみ、すんごく可愛い。名前は?」
暗い銀髪をひとつに纏め横に垂らし、
深い青の瞳が美しく、
中性的な顔立ちのイケメン
妙にオーラがある……
かなりの美人……
絶対 攻略対象じゃんか、この人も。
ヒロイン、めんどくさっ……!
にこっと微笑み、覗き込まれる
が!
こちとら昨日、泣きたくなるくらいの胸きゅんを
あのイケメンに浴びせられているのだ
あのイケメンを拝んでしまったが最後、
私はどんなイケメンにも動じない。
「ナレリシア侯爵家の長女、
ミラ・ナレリシアにございます」
「わぁ!きみか…!
ぼく、きみの大ファンなんだ、聖女様」
私の手をとり、その手を自身の頬にすりっとこすり当てる彼に、ドン引く。
「……手を離してくださいます?」
にこっと圧をかける
「ごめんね? あんまり可愛いらしい手で、思わず…」
ふふふと見つめてくる彼
どうやら、軟派なタイプの攻略対象みたいだな。
だけどこれは多分、本気じゃない目をしてる。
「僕は、オースティン侯爵家の次男
サミュエル・オースティン よろしくね 」
オースティン侯爵家といえば、
確か長男と奥様が事故ではやくに亡くなり、
跡取りの次男は女遊びで浮名を流してばかりの……
なるほど、彼が。
このタイプは、自分に惚れない
いわゆる、おもしれぇー女 みたいなのに興味をもつってのがセオリーよね
とりあえず、それを避けよう
「ねぇ、聖女様
今夜、ぼくとデートでもどう? 聖女様の疲れを癒してあげたいな。」
「あら、魅力的なご提案ね?
でもごめんなさい、わたくし、童貞狩りしかしませんの。では、失礼。」
よし。このヒロインなら絶対いわないセリフ。
これなら発展しようがない。この人にはこれでよし。
ぽかーんとしたサミュエルに背を向け、
歩みを進めたその瞬間、
ドンっ
ちょ、またぁ?!
しつこい!攻略対象でしょまた!しつこい!
もう、いいわよ!どんとこい!
さっさとフラグ、へし折ってやる!
と顔をあげると、
にっこり と微笑むイケメンが視界に入る
「うぃ、ウィン様……」
こわい。なんか、笑顔が、こわいよ?!
え、なに、この笑顔が演技抜きの私への顔?!
なんでこんな殺気だってるの?!
手を引かれ、近くの空き教室に連れていかれる
「……ウィン、様?」
「しらなかったなぁ。
ミラの趣味が、童貞狩りだったなんて。」
きっ、きかれてたっ……!
やばい、やばいやばい、
これじゃ、まさにアダリンの思い描くやばいヒロインそのものだよ!
このままじゃ ざまぁ されちゃう……!!
「どうしよっか? 俺の童貞は1回しかあげられないんだけど、それだけだともの足りないかな?」
「は、はい…… ?」
な、なにをおっしゃっているの、ウィン様
「あー…まぁ、いいや。
そのときは、俺がミラの趣向を変えてあげるね 」
にこっとふたたび微笑むウィン様
こ、こわいです。
「ごっ、誤解です…!
オースティン侯爵令息様が、興味をなくしてくださるような言い回しを考えたら、ついあんな言葉が出てしまったといいますかっ……!なのであの…っ、ご、誤解です……!」
仮にも好きな人に、
なにをいっているんだ。私は。
誤解をとかなければ、
ざまぁ まっしぐら。それはだめ。
好きな人に最悪殺されるエンドなんて、笑えん。
「……ふーん」
「な、なんでしょう……」
というか、さっき、
ウィン様、まるで私に童貞をくださるみたいな言い回し……
わぁぁ!また!またまんまと流されてる私……!
そういう演技!この人は上手いの!!そういうの!
期待するな!私……!!
「ミラが、色んな男に囲まれていて、虜にしてる、
なんて話をしてくる奴もいるし、俺不安だなぁ。」
私の両肩に両腕をのせ、私の首の後ろでそれを軽く重ねるウィン様に私の顔は赤くなる
また根も葉もない噂を……
ん?
待って、違うよね、多分それ
今日どこかで聞こえた話し声。
その内容は、私が男とあれば手当り次第色目を使い、
婚約者の女性にも見せつけるように振る舞う というものだった。
いや、絶対これじゃん。
ウィン様がきいた話、これじゃん。
めちゃくちゃ遠回しに、めちゃくちゃ美化して警告してるよね、これ。気付いてるぞ、みたいな。
違う違うんですウィン様、本当に。殺さないで。
もしやこの怒り具合、アダリンからきいた話ですか。
だとしたら、もう!アダリン!なんて女……!
……ん?まてよ?
ウィン様もウィン様じゃないか?!
いくら私を釣るための演技だとしても、
き、きき、キスはやりすぎなのでは……?!
あながち噂が間違いともいえなくなって……る……?
こ、これか……
ウィン様のキスはこれが狙いだったのか……?
こ、こわ……
ヤンデレ王子、愛される側は最高に幸せそうだけど、
その他大勢には凶器です。
「…………誤解です……」
私は、ぐるぐると考えながら、
ぼそっと小さな声で否定することしかできなかった。