5. ふたりだけの秘密基地
ー放課後ーー
ついさっき、例の小瓶に残した私の魔力の移動を感知し、その方向へ歩みを進める
…ここだ。
……犯人はここにいる。
会話をしている…?中にいるのは3人……?
騒ぎにはなっていないし、
感知した魔力から、ビンは握りしめられていることがわかる
よし、犯人を特定するなら、今だ
ガチャッ
「ミラ!」
「お兄様…!」
と、げっ…ウィン殿下…
きてくれたんだねって顔でにこにこしてる……
そして、魔力の方向と状況的に、
こいつが犯人。
「お兄様」
と声をかけ、視線で合図する
それを察したお兄様が、合図をして、
影に身を隠した護衛がすぐに犯人を取り押さえる
その拍子に小瓶が転がり、
な、なぜだ!と騒ぎ出す犯人
「…なるほど。どうやらミラのお手柄みたいだね?
ユリス」
それから、あっという間に事が片付いてしまった。
説明もしていないのに、
私のわずかな魔力、先程毒味係と飲んだという紅茶に感じた聖水、私が入室した理由、兄との咄嗟の連携、
それを理解して動いてくださった。
正直、私が疑われる、なんてこともあるかもしれない、そうでなくとも、ここまでの魔力感知や浄化能力について、そんなことできるはずないと取り調べくらいされると思っていたのに、お兄様が私を信じているからか、こうもあっさりと私を信じてくださった。
まるであたりまえとでもいうかのように。
何度もこういった連携の経験のあるお兄様ならともかく、そうではない殿下がすぐに理解してくださるなんて………
頭の回転がはやくて仕事ができる人がすきな私、
不覚にも、少し、惚れそう…。
ぜっったいに駄目だけど。
「ミラ、お礼はなにがいいかな?」
「…そのお言葉で充分にございますわ」
口角を無理矢理持ち上げて笑顔をつくる
「殿下、ミラは謙虚で、私がきいてもなにも欲しがらないんですよ~」
……さすがお兄様!ナイスアシスト!
「そっか。じゃあ、ミラが遠慮せずに甘えられるような形で、今後は甘やかすことにするよ。」
な、なんっというスパダリ発言…!
こっちが甘える前に、察して甘やかして、
その上形までも甘えやすいようにするなんて!
甘え下手な私が望む、究極の優しさ…!
お、おそろしい王子……
だめだめだめ、これは罠
落ち着きなさい、私
「まずは、これ。
ミラ、もらってくれる?」
ふわりと微笑む殿下が差し出したのは、
キーカード
「…殿下?!」
驚くお兄様
な、なに?そんなにすごいものなのこれ?
「俺の秘密基地」
楽しそうににこっとする殿下
お、俺って……!!
殿下、ご自身のこと、普段は俺とよんでいるの?!
さすがにきゅんとせざるを得ない……!
お兄様がいるとはいえ、
私もいる場で気を緩めてくださるなんて……
……ん?
もしやこれも作戦……なのかしら……
うん、絶対そうだ。危ない。
ほんっと危ない、この人。
秘密基地なんて、いかにも特別そうな場所のキーカードなんて受け取れるはずもなく、首を横に振り続ける私を強引にどこかへと連れていく殿下
学園を少し離れ、
王族専用のワープゲートを共にし、
ついたのはなんとなんとのお城だ
「……で、殿下?ど、どどど、どこへ?」
「ウィンってよばないと、
このままここに監禁しちゃおうかなぁ」
お城に?!
「……うぃ、ウィン様、どこへ……?」
「もうつくよ」
楽しそうに笑うウィン様が私を連れてきたのは、
お城の離宮がいくつかあるエリアだった
その中に、離宮というよりも、
塔のような形をした建物がくっついたひときわ目立つ離宮があり、その中に案内された
そして、息を飲む
「……」
そこで感じたのは、大きくて、色鮮やかな、
沢山の魔力
沢山の部屋があり、そのすべてから、
活きのいいあつい魔力を感じる
「ここは、大魔塔宮殿。
あらゆる魔法の権威達が、ここで魔法を極めているんだ。」
もちろん、知っている。
というより、この国で知らない人はいないだろう。
王子であるウィン殿下が、
公爵家跡取りとして興した事業や個人財産のみで
営む研究施設。
確かに、ここで研究しているのは、
それぞれが各分野の魔法の権威たち。
それは、ウィン殿下が支援して、
彼らの功績を広く世に広めたからにほかならない。
ここにいる大半は、爵位がない平民出身。
貴族でないと、魔法を学ぶことはおろか、
文字を学ぶこともままならなかったこの国で 、
埋もれ見つからずに消えていく才能を見つけ出し、
育てることをはじめ、国を大きく豊かにさせた。
貴族社会のこの国で、
平民から搾取せず、教授する
そして自らが矢面にたち、責任を持ち、
平民の出した研究結果を、その者のものとして
正式に発表し、実力に応じて名声と権威が得られるように取り計らっている。
数々の功績をうみ、数々の偉大な研究者をうみ、
ここは今や国の財産だ。
この話をはじめてきいたとき、
アダリンあたりの前世の思考回路を駆使したチート戦術かしらと思っていた。
そんな自分を深く、深く恥じる。
この大魔塔宮殿を、
あまりにもあたたかな目で見つける彼からは、
親の愛のようなものを感じる。
その目をみて、すぐに気づいた。
あぁ、すべて、彼の志の結晶なのだと。
「……あたたかい。私、ここが好きです。」
思わず口にしたその言葉に、
ウィン様は、くすぐったいよ と嬉しそうに笑った
「ミラ、こっち」
そう手を引かれて、
隣接している塔の方の入口につれていかれた
「このカードキーは、ここの。」
ウィン様がカードキーをかざし、
私を中に招く
「……!」
あまりにも、胸ときめく光景だった
螺旋階段が誘う天井まで、
壁一面に並ぶ本。
ふと目に入る題名たちのすべてが、
どんなコネクションを駆使しても読むことができないとされる貴重な本ばかり
中には、幻とよばれる禁書、世界に1冊の本、
美術館に置いてあるレプリカの元本 などもあり、
あまりの光景に、ときめきとおどろきが止まらない
「ここが、俺の秘密基地」
「……天才?」
ふはっと楽しそうに笑うウィン様に、
キラキラとした目を向けてしまう
「俺しか入れない、俺だけの秘密基地
ミラ、好きなときにきていいよ 」
そういって私の手をとりカードキーを握らせるウィン様
「なっ?! だ、だめだと思います……」
「隣の宮殿にも、ミラの部屋をつくったんだ
ここにいる魔法使い達は、みんな家族みたいなものなんだ。ききたいことがあれば、みんな熱心に教えてくれるよ。きみの力になってくれる。」
なんて魅力的…!
独学で魔法の勉強をしていた私が、
ひそかに憧れつづけたこの場所……
アダリンを避けるがあまり、ひそかにだったのだけれども
「というか、元々招待状、送ってたのに。
きてくれなかったよね 」
むすっと可愛らしく拗ねるウィン様
招待状……
やばっ、ウィン様関連の招待状はすべてろくに目も通さず燃やしてたっ……
「…も、申し訳ありません
尋問とかされちゃうのかなって……思っていまして…あはは……」
「尋問? 俺がミラに? …あはは、一理ある」
一理あるの?!
「なーんか俺のこと、避けようとしてるよね?
研究室の件はミラに任せるけど、
この塔のキーカードを受け取ってくれないなら、
なんで俺につめたくするのか、尋問しちゃおうかな?」
……っ!
めざとい!このイケメン……!!
そりゃほしいよ?!すっっごく!!
本の虫といじられるほど、読書だいすきだもの…!
こんなに心惹かれる場所、ふたつとない!
「本、すきなんです…
研究室も……すごく、嬉しい……。
ウィン様、本当に、甘やかすのお上手ですね…?」
若干照れつつ下手くそな感謝を述べる
なにそれ、かわいい
と言いながら、壁ドンして私の逃げ道をなくし、
顔を近づけてくるウィン様に驚き、咄嗟に下にしゃがみ込み、逃げる。
ウィン様は、それを追いかけて、しゃがみ込み、
にこっと私に微笑む
「これ以上下には逃げられないね?」
ちゅっ、
その言葉のすぐあとに重ねられた唇から、
じわりと熱が広がる
「……な!ま、また……!」
わなわなと震えながら顔をあつくする私を
熱のこもった瞳で見つめるウィン様
美の暴力にもほどがある
「……んっ!んんん……!」
今度は、強く口を塞がれてしまい、
重なるふたつの唇は、同じ体温になり、
そのまま溶けあってしまうのではないかと
いうほどにひとつになる
「ねぇ、ミラ。 俺のこと、好きになって」
強く抱き締められ、
赤く染まる耳元で
「 俺は好きだよ 」
と甘くあつく囁かれる
んな?!な?!!なぁぁぁあ?!!
え、演技力やばすぎませんか?!
これが演技じゃなければ、
なんてあほなことをおもいつつも、
演技だと言い聞かせても鳴り止まない心音
やばいやばいやばい
だめだ、これ
私、すきだ。
好きすぎる。
いとも容易く、おとされてしまった。