4. 悪役令嬢に潰された入学式イベント
「ミラ・ナレリシア!あなたはここにいなさい!」
と、入学式前に呼び出されたアダリンに、
たった今、閉じ込められてしまった。
絶対 イベント回避させるためのいじわるじゃん…!
とすぐに気付いたが、
だからこそ時がくれば解放されるか、と
大して慌てることはない。
…ん?
視線の先には、小さなガラスの小瓶が置かれていた。
「……なにこれ、すごく禍々しいな…」
邪気に溢れたその小瓶を掴み、
さっと浄化する。
これは呪法だ。
人が死ぬほど強い、禁忌の呪法。
そんなものを授業で取り扱うなんてこともあるはずがないし、誰かがここに隠したのだろう。
私の光魔法で浄化したので、
もうこれはただの聖水。安心安全だ。
あとで持ち主がこれに触れたら、
私の魔力が感知して、持ち主をたどれる。
犯人ごと捕まえてやろうじゃないの
「とりあえず、扉があくまで寝ようかなぁーー」
床に座り、目を閉じて、眠りにつく。
ーーー
どれくらい寝ていたのだろうか
頬にひんやりとした感触を感じ、
少しだけ意識が戻る
やさしい感触が心地よくて、
頬でその感触を味わうと自ら距離をつめる
すりっ…
「んん…きもちぃ……なーにぃ?これ」
「おはよう。私の手だよ。」
「………っ!」
その言葉に驚き目をあけると、
目の前には、息をのむほど神秘的な、人……なのかな、こんなに美しくて……
白く輝く髪に、
どんな宝石よりも綺麗な薄い紫の瞳
長い睫毛と透き通るような白い肌と
少し桜色に染まった頬が 色っぽくて儚くて…
想像しうるどんな神様よりも綺麗で、高潔で、
神々しい
ひ、光ってる
本当に後光がさすことってあるんだ…
見惚れて固まっている私の頬にその手を添えたまま、
くすっと柔らかい微笑みをみせながら
「そんなに好き?私の顔 」
と囁く彼の顔が、片耳に垂れた銀のピアスとともに
こてんと傾き、私を覗き込む
「…………すっ、すき…です…」
そう、私はメンクイなのだ。かなりの。
前世で色恋沙汰に興味がなかったのは、
私に刺さるほどのイケメンがこの世に存在してると思っていなかったからだ。実際にみたことなかったし。
なのに、人外としか思えない、こんなにも美しいイケメンを拝めるなんて……!
しかも寸分の狂いもなくすべてが私の好み……!
異世界最高!異世界ありがとう!!
さすが乙女ゲームクオリティ……!!!
「ふふ、この顔でよかった」
ふにゃって笑うその笑顔……!
なんてあざといの……!天使か……!!!
そしてどことなく儚くて色っぽい…!すき!!
「改めまして、私は ウィン・ウィ・イストベル。
ずっと会いたかったよ。 ウィンってよんで 」
……ん?
ん???
ん?!?!?
ウィン・ウィ・イストベルって………
国内最高の財力、権力、栄誉を誇る
イストベル公爵家のご長男のお名前じゃ……
そ、そして、
イストベル公爵家のご長男といえば……
王位継承権第2位の…
アダリンの愛しの “ 殿下 ” 、
メインヒーローーーー…………!!!
や、ややや、やばい
どうしよう、どうしよう、
ついうっとりしちゃったけど、
“ あの ”殿下ってことはつまり
これって牽制だよね?!
直接くるなんて、
ここが学園だから?!
それともアダリン、とんでもないことでっちあげた?!あ、あの女ぁぁ……!!
「……み、ミラ・ナレリシアと申します……
父はナレリシア侯爵、兄は殿下の秘書官 ユリスにございますわ……
……王子殿下をそのように呼ぶなど、わたくしなどには恐れ多いことにございます……」
震えながら言い切る
「よんでくれないと、さみしくて、
いけないことしちゃうかも。」
にこっと笑う殿下をみて背筋が凍る。
え、なにこれなにこれ
そういう作戦?!
アダリンに協力して、
ヒロインざまぁのための、ヒロイン無礼シナリオを
つくろうとしてるの?!!
いまだに離れない殿下の手から、
顔を離そうと反対方向にゆっくり顔を遠ざけると同時に、ぎゅっ と今度は両手で頬を包まれた
「……ね?」
にこっと微笑む殿下
ひ、ひぃえぇぇえぇ?!!
圧倒的美貌によるドキドキと、
ヤンデレ王子の牽制に怯えるドキドキで、
どうしようもないほどに胸が高鳴る
私の感情はぐちゃぐちゃだ
「……よ、呼びますっ……ウィ、ウィン殿下っ」
なので、離してくださいぃぃ
と震えながら小さく訴える私に、
「…それもさみしいなぁ?」
なんて上目遣いをする殿下に
私の心はふたつの意味でキャパオーバー
「……ウィンさまっ」
か細くいう私をみて、
かぁーわいい と楽しそうにいいながら
にこにこ笑っている
ちゅっ
……………………え?
私の唇に、軽く、ふわりと、
唇を重ねてきた
「授業以外は、執務室にいるから、
いつでもきてね」
固まる私を気にもとめず、
そう言って去っていく
……え?
ん?んんん?え?????
な、なにが起きた?
きっ……きs…いやいやいやいや
あ、あれかな?当たっちゃっただけとか?
いや私はそう思えるほど阿呆でもない。
……はっ
わ、わかった。あれだ。
私の油断を誘って秘密裏になんか色々調査して
悪事を暴くための演技……!
悪役令嬢ものの漫画でよくみた展開…!
愛してる悪役令嬢のために、
気のあるふりをして…みたいなやつ!よくあるやつ!
え、こわ?
こわいこわいこわい、ここまでするの?!
そりゃ信じちゃうよ!ヒロイン達……!
漫画のざまぁ要員のヒロイン達、
こんなあからさまな罠に引っかかっちゃってえ
おつむ弱いなぁ
とか思っててごめんね?!
これは信じるよ……
あっぶな…私もころっとやられるとこだった……
悪役令嬢ものの漫画、ハマって読み漁ってた時期の私に感謝だ…
……前世も合わせて、
私のファーストキス。
わ、罠だとしても、
あんな絶品のイケメン様だから、
う、嬉しいって思っちゃうじゃんか。
…………悔しいな、忘れよう…。