ウィンside ~過去のお話~
13歳のその日、
俺はお忍びで城を抜け出して、孤児院に向かっていた
少し前の城下視察に際に、
たまたま耳にした、人身売買のやり取り
それを話していたのは、
俺の兄である王太子の実の母の侍女。
俺にとっての継母であり、俺の母上が亡くなってすぐに側室から王妃へと昇格された女だ
慎重に動かねばならないことから、
俺は自ら数人の影とつれ、
目の色と髪の色を目立たないミルクティーのような色に変え、フードを深く被り城を抜け出した
孤児院の入口に集められた13人の幼子達
なぜか皆、それぞれが重症をおっている
影を潜ませ、臨戦態勢をとらせ、
自らは怪我人のふりをしてその中に混じった
近寄ってくる数人の足音に気づき、
影達が捕まえ、拘束する
2名の影を残し、拘束した奴らを秘密裏に城の俺の隠し地下牢に幽閉するよう視線とハンドサインで指示を出し、それぞれが大怪我して泣きじゃくる子供達の保護に動き出そうとした、その時だった
「大丈夫…!私がすぐに治すから……!」
どこからともなく駆け付けた同い歳くらいの女の子が、すごい勢いで子供達の元に寄り添い、
「ほんっとうに偉いわ、なんて強いの…
貴方を治してあげることができて、私は幸せ者だわ」
と、偉く大人びた優しい励ましと共に、
みるみると子供達の怪我を治していった
これは……聖女の………… 光魔法…。
ということは、彼女が、
ミラ・ナレリシアか…。
彼女のことをは知っていた。
というのも、聖女として母上の聖堂に現れたものの、
とある事件に巻き込まれそうになり、
ナレリシア侯爵家が保護をしたと、
王族や筆頭貴族には伝え聞かされていた。
彼女の噂は散々だった。
人の男を誘惑することを楽しみ、
治療した男は、みな自分のものにしないと気がすまない。そのために、男のためならどこにでも駆け付けて媚びをうる。天性の男好き。
大抵がこんな噂だ。
好きな人をとられただとか、
女の治療の後には酷く顔を歪めるだとか、
数々の実体験だという報告があがり、
実際に調べさせたところ、
色恋沙汰で女に叱責されていたり、
治癒後に顔を歪めたところはみたときいた。
着色もあるのだろうが、
まぁそういった人間なのだろう。
そう思うと同時に、
どんな理由があれ、“ あの ” 光魔法を、
前例のないほどの頻度で使い、人々を救っているその事実に、魅せ方が下手なのだろうか。
なにか人にはいえぬ事情があるのだろうか。
身を粉にして尽くしているのに、
酷な噂を流される聖女とは何を考えているのだろう。
などと、はじめて人に少しばかり興味を抱いていた。
全ての子供を治療し、
魔法をかけた瞬間、その全てで、
彼女は固く顔を引き攣らせていた。
苦しみに歪みそうな顔を、必死で笑顔にみせていた、
という表現のほうが正しいだろうか
俺を最後の一人だと思い、
誰よりもふらふらな身体でこちらに近づいてくる
「私は大丈夫だ。
国の者だ。彼らを保護しにきた。」
そう伝え、それと同時に目で合図して
影に子供達を保護させる
「……っ!…天才!ありがとう!救世主だわ…!!」
心底 安堵したように、
そう感謝された
本当に、本当に、こちらの台詞だ。
パタンっー
彼女が息を切らして、倒れ込む
「大丈夫か、おいっ」
さすがにこの人数と、あの怪我だ、
彼女へのダメージは、かなり深刻だろう
「きみも城へ運ぼう」
「あっ!まって……はぁっ、はぁっ、
大丈夫 」
ふにゃりと笑顔をつくる彼女に、とまどう
「あの子達には、秘密にしてね…?
私の魔法ね、一度自分に全てを肩代わりさせて、
それから自分を治癒するって形なの……はぁっ……」
……は?
「だから、もう大丈夫…!治ったよ!」
ふふと幸せそうに笑う彼女に、理解が追いつかない
「あとね、あの……余計なことだったら、ごめん……」
そう言って、俺よりよっぽど辛そうな彼女は、
俺の手を握り、祈り出した
「……っふ、ううっ……っ、っ……」
彼女が辛そうに泣き出すと共に、
俺の心が軽くなっていく
母上が亡くなってから、ずっとにぶく俺を苦しめた、
重い重い苦しみが、ふわぁっと和らいでいく
「……っ母上……ふぅ……ぅっ…………っ」
何が起きたか、すぐに理解した
彼女が、
俺より辛いであろうこの華奢な女の子が、
怪我を治癒するように、俺の痛みまでもを
引き受けて泣いているのだ
「……っ、ごめん、ね」
涙を拭いながら、彼女がそういう
「心だけは、一時的なもので、
またすぐに苦しくなると思う。
でも、もしかしたら、その時間が、
貴方の救いになるかもしれない、から……」
起き上がり、俺の前に座る彼女が柔らかく微笑む
「ひとりじゃないよ。私も知ってる。
……あなたのお母様が、いないことが、どんなに辛くて、さみしいことか……
だって、あなたのお母様、泣けてくるくらい、いい人だね…すごく、愛おしいね……」
綺麗な涙を流しながらそう微笑む彼女に、
俺は、救われた。
俺は、このとき、
ミラ・ナレリシアという人間の、
尊さを知った。
美しさを知った。
優しさを知った。
危ういほどの、自己犠牲
恐ろしいほどの、強さ
守りたい、崇めたい、閉じ込めたい、
愛おしい。
人と人との繋がりを、
損得感情、理論的にしか考えることのなかった俺が
はじめて、唯一、
恋焦がれた女の子。
俺のすべてはきみのもの。
きみのためだけに生きていたい。
だから、きみも、俺を愛して。
俺だけの、ミラ。




