第2首
第2首です。
しばらく私の実体験が続きます。
第2首
墓地に行き
死者の会話を
楽しめる
そんなあなたが
何より怖い
短歌解説
私自身の実話です。
大学に入って、私は故郷を離れ、下宿生活を始めました。2階建て計10部屋のひと部屋4畳半のおんぼろアパートで、1階と2階の炊事場には一口コンロが各1台だけ、トイレは共同でした。風呂は隔日で近くに住む大家さんの家の風呂を使わせて貰えました。
大学は総合大学だったので、色んな学部の学生が住んでいました。私がそのアパートに住むようになったときには、私だけが1年生だったので他の部屋の人は皆先輩でした。私の部屋の2階にはMさんという3年生の先輩が住んでいました。M先輩は私と同じ芸術学部の人で、課題制作のために夜遅くまで起きているようでした。
夏が近づいて、ようやくおんぼろアパートの隙間風も気にならなくなってきた頃から、午前1時頃になるとM先輩の部屋の戸の開閉音が聞こえるようになりました。雨の日を除いて連日です。耳を澄ますと、外付けの階段を下りる足音も聞こえます。どこかに出かけているようなのです。
当時はアパートの周りは田んぼや畑が広がっていて、家は数件しかありませんでした。直ぐ近くには、小さな山もあって、昼間はのどかな風景でしたが、夜になると真っ暗で出歩くには少しためらうような所でした。
もちろんコンビニなどが近くにあるはずもなく、アパートから歩いて20分ほどの場所まで行かないと店はありませんでした。その店は午前0時には閉まるコンビニもどきの店でした。しかも、その店に行くためには、小さな山の横の細い道を通らなければならないのです。24時間営業のコンビニは更に15分ほど歩いた先にありました。
私は、夜遅くまで課題に取り組んでいるM先輩が買い出しに行っているのかなと思っていました。しかし、ある夜の午前2時過ぎ、トイレに行くために部屋を出た私は、アパートに戻ってきた先輩と偶然会いました。M先輩は懐中電灯を持っているだけで、レジ袋などは持っていませんでした。
「M先輩、コンビニに行ったんじゃないんですか?」
私がそう訊くと、M先輩は静かに首を横に振りました。
「お話を聞きに行ってきたんだよ」
「お話? 友だちのところですか?」
「亡くなった人たちのだよ」
私はM先輩が言った意味が全く理解できませんでした。
私が何も言えずにいると、M先輩が話を続けました。
「あそこの山の道を入った直ぐの所に無縁墓地があるんだ。そこの墓地の真ん中当たりで体操座りをするんだよ。そうしたら、しばらくすると亡くなった人たちの話し声が聞こえてくるんだよ。僕は彼らの話を聞くだけで会話には入れないが、話を聞くだけでも楽しいよ」
そしてM先輩はニヤッと笑みを浮かべて言いました。
「合沢くんも今度一緒に行ってみないかい」
私はブルブルと首を横に激しく振り、「え、遠慮します」と叫んでいました。
M先輩は、「そうかぁ、残念だなあ…」と呟きながら階段を上っていきました。
もしかしてM先輩は何かに取り憑かれていたんでしょうか。その時はM先輩の周りに霊らしきものは感じませんでしたが。
残り 98本
怪奇現象ではないのですが、このアパートの部屋でパニックになったことがあります。仰向けに寝転んで本(少年ジャンプ)を読んでいるときに、天井からボタリと何かが落ちてきて、私が来ていたランニングシャツの中に胸元から入っていったのです。私が慌ててランニングシャツの裾をパタパタすると、床に落ちたのは体長15センチほどのムカデでした。私はパニックになって、少年ジャンプをムカデに向かって何回も叩き下ろしました。その後、殺虫剤を空になるまで部屋中にぶちまけました。