第七話 僕は絶対に君を泣かせない
「・・・ありがと」
春野くんは私の言葉を聞いて、ただ静かに美しく微笑んだ。まるでヨーロッパあたりで栄えた絵画に出てきそうな静かな微笑で、今までの人たちとは違っていた。
それだけで、私の心臓が大きく跳ねる。
これまで、いろいろな人と付き合ってきたが、ここまでドキドキとしたことはない。
やはり、春野くんは私の過去の男の人達とはどこまでも違う。
瑠衣と瑠美も一緒に遊びたがったため、一緒に遊ぶことになった。
テレビゲームでも良かったが、ここはトランプゲームにしようということになり、まずは王道のババ抜きから遊んでいた。
正直言って、すごく楽しかった。今までの彼氏たちとは違って一緒に遊んでいても、付き合い始めても、ずっと好きという気持ちが消えない。
二時間後、瑠衣と瑠美は遊び疲れて寝てしまっていた。
私は、二人に布団をかけながら、春野くんに話しかける。
「ごめんね、瑠衣と瑠美が迷惑かけて」
「まさか。いい子たちだね。それに、瑠璃のことが大好きって気持ちが伝わってくるよ」
「え?そう?」
私が、春野くんの隣に座り首を傾げると春野くんは瑠衣と瑠美を見つめてこう言った。
「瑠衣ちゃんと瑠美ちゃん、事あるごとに僕を見てたよ。瑠璃に話しかけているときもジロジロこっち見てたし・・・あと、瑠璃が席を外したときにこう言われたよ」
春野くんはふっと笑みをこぼしながら瑠衣と瑠美に言われた言葉を教えてくれた。
「春野さん、私達と約束してください。お姉ちゃんを不幸にしないって」
「瑠璃姉ちゃんを不幸にしたら許しませんからね。絶対、幸せにしてください」
春野くんはもちろんと即答したらしい。それはすごく嬉しいし、瑠衣と瑠美が私のことを案外考えていてくれていた事実も嬉しい。
瑠衣と瑠美がそう言うのは、私に男運がなかったからだろう。春野くんには話していないが、私はとにかく男運が悪かった。別にトラウマになっているわけでもないから、言う必要性は感じていない。
「あ、そういえば」
春野くんはわざとらしく言った。
「瑠衣ちゃんと瑠美ちゃんに聞いたんだけどね・・・」
春野くんは徐々に声のトーンを落としていく。
「瑠璃・・・過去の男に何を言われてきたの?」
春野くんは笑ったままだ。・・・目は、笑っていないけれど。
「・・・なんのこと?」
私は、あくまで知らないフリを続ける。何も知らないほうが幸せになれるときは存在する。
「瑠璃、嘘は良くないよ」
春野くんは追及の手を緩めない。
「嘘じゃ、ないよ・・・」
私は髪をくるくると指に巻きながら、返答に困る。
「本当のこと、教えてほしいなぁ・・・。だめ?」
春野くんが下から私を覗き込んだ。身長的には、春野くんのほうが大きいから、わざわざ顔を下に持っていき、下を向いている私の目を見ようとしたのだろう。・・・そこまでして、聞きたいのだろうか。
「・・・単純な、話だよ」
私は諦めて話し出すことにした。
「過去の彼氏たちが、私の顔目当てだったってだけ。だから、その・・・愛想振りまいてれば良いとか、そういうこと、言われてきただけ」
私の言葉に、春野くんはスッと顔から表情を消した。
「は、春野、くん?」
恐る恐る名前を呼ぶと春野くんはいきなり私を抱きしめた。
「え?ちょ、ちょっと春野くん!?」
私の言葉を聞かないで、春野くんは私を抱きしめつつ頭を撫でだした。
「平気そうな顔して、本当は辛かったんでしょ?」
そう、言われた。
「そんなこと、ないよ。本当に、何も思ってない。辛くなんかないよ?」
そうだ。思っていない。思っていなんだ。辛くなんかない。何も心配することはない。
「無理しないで。瑠璃、言って良いんだよ。辛かったら辛いって言って良いんだよ」
我慢なんて、しているつもりはなかった。
ただ、春野くんの熱にほだされて・・・私はいつの間にか泣いていた。
「僕は絶対に君を泣かせない」
春野くんはそう言いながら、私をより強く抱きしめた。




