第二話 ふざけないでくれる?
『瑠璃って呼んでもいい?』
突然送られてきたメッセージに、私は思考がショートした。
え、呼び捨て?呼び捨て!?
私は、恐る恐るOKと書かれたスタンプを送った。
すると、速攻既読がつき『ありがとう』と送られてきた。
それを、瑠衣に言うと良かったじゃんと言われた。
次の日、学校に行くと春野くんが話しかけてきた。
「瑠璃、おはよう」
好きな人から「瑠璃」と呼ばれるのは、すっごい嬉しい。
それに、自然と口角が上がる。
「おはよう、春野くん」
私の言葉に、春野くんは嬉しそうに目を細めた。
後ろからの視線を感じて振り返ると、みーさんが私を見ていた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
みーさんの意味深な視線に首を傾げながら、私は春野くんを見た。
「ねぇ、瑠璃」
「何?」
「放課後、空いてる?」
「え・・・うん、空いてるよ」
なんだろ、最近・・・春野くんとの距離が縮まっている気がする。
それが良いのか、悪いのかは置いといて。
私と春野くんが言った場所は、ゲームセンターだった。
「こう言う場所、嫌い?」
春野くんは、そう聞いてきたが、私としては好きだ。たまに、みーさんとも遊ぶ。
春野くんとは、カーレースのゲームをすることになった。
「ねぇ、瑠璃」
百円を入れながら、声をかけられた。
「なに?」
「勝ったほうが、負けた方の言う事一つ聞くってのはどう?」
「・・・いいね」
私はニヤリと笑ってそう答えた。なぜなら、このゲームには自信があったのだ。
ゲームには、私が勝った。
「やったー!!」
喜ぶ私と、落胆する春野くん。
その対比に笑いながら、私は春野くんに何を要望するかを考えた。
「そうだ、春野くん」
付き合って。そう答えることも考えた。でも、それは駄目だなと思う。それはフェアじゃない。
「これからも、仲良くして?」
そんな要望にした。
「え、そんなのでいいの?」
春野くんの問いに、笑った。
「もちろん」
「じゃあ、これからも・・・仲良くするよ」
春野くんは優しく笑いながら、そう答える。
その笑顔にドキッとしながら、私は余裕ぶった笑顔を向けた。
本当は、全く持って余裕じゃない。
みーさんと移動教室の帰り、春野くんの声が聞こえた。
「ゆ〜すけ」
「なんだよ」
「最近どうなのよ」
私がピタッと足を止めると、みーさんが振り返ってきた。
「るーさん?」
みーさんは滅多に笑わない。だから、今も無表情だ。なぜだか分からないけど、その無表情に初めて恐怖を感じた。
何も知らないのに、なぜだか恐怖心が湧く。世界から音が消え、みーさんの無表情しか視界に入らなくなる。なのに、耳はみーさんの言葉を拾わない。みーさんの唇は動いているのに、何を話しているのかは分からない。
ただ、春野くんの声と春野くんの友人と思わしき人の声だけが耳に入る。
「どうって?」
「クラスのかわい子ちゃんの話だよ」
「あ〜瑠璃ね」
「そうそう」
「ちょろいよ。あっさり呼び捨てで呼ばしてもらえるようになったし」
「は?距離縮めるの早いな」
「だろ?」
「な〜な〜、本当に、そのルリちゃんが好きなの?」
「・・・なわけねぇだろ。ただ、見た目が可愛いからだよ」
わぁっと雑踏音が戻る。
クラっとして、私はみーさんに倒れ込んだ。
「るーさん?大丈夫?」
体中冷たくなる中、みーさんの温かい体温が安心感を与えー
そして現実味も与えた。
「大丈夫だよ」
ようやく絞り出した声は、震えていてきっと大丈夫じゃないことは明らかだろう。
「るーさん、教室行ってて」
そう言うみーさんの声は、冷たくて思わずゾッとしてしまった。
「うん」
そう言うのが、やっとで・・・みーさんの顔を見れなかった。
ただ唯一聞こえたのは、この声。
「ふざけないでくれる?」
それだけだった。