第一話 瑠璃って呼んでもいい?
あれから数日経つと、春野くんへの恋はより確かなものへと変化していった。
恋とは不思議なものだと、私は恋をするたびに思う。
だって、好きになれば好きになる程、心は荒れ、おかしな方向へと突っ走る。
文化祭も終わり、ひと段落ついた時、私はみーさんに雑談しようと誘った。本当は、恋愛相談をしたかったのだが・・・みーさんが、恋愛相談してきた。
恋愛しないと豪語していたみーさんが、恋とはなんたるかを考えるようになるなんて・・・みーさんも、変わったなぁ。
でも、みーさんが恋をしようとしているのに、私が怖気付いて春野くんに話せていないのは、いかがなものだろうか。
私は、みーさんに「当たって砕けろ」と言った。なら、私も当たるべきではないだろうか。
でも、怖い。
みーさんには、あぁ言ったが、私だって嫌われたりした時が、一番怖い。
「え〜お姉ちゃんが怖がるなんて、珍しいね」
家で、私の二つ下の妹ー竹宮瑠衣がそう言った。
瑠衣も、私に似て恋大き乙女だ。唯一私と違うのは熱しやすく、冷めやすい、というところだろうか。
私は一度恋をしたら、なかなか冷めないのだが、瑠衣はすぐ冷める。どうやら、蛙化現象というものらしい。
「その人のこと、そんなに好きなの?」
「え・・・あぁ、うん」
「なるほどね〜。その人と、よく話したりしている?」
「ううん」
私の言葉に、瑠衣はあからさまに落胆した。
「当たる前に、仲良くならないとダメでしょ?」
「うん、そうだね・・・」
「とりあえず、話しかけてみる!!ね、お姉ちゃん」
瑠衣はそう言って、笑ってきた。
家族曰く、私たち竹宮三姉妹は笑い方が似ているらしい。
長女、私ー瑠璃。次女、瑠衣。三女、瑠美。
瑠美は私の五つ下だ。まだまだ十一歳の可愛らしい少女なのだが、どうやら、恋に悩んでいる。
なぜだかはよく分からないが、竹宮三姉妹は恋大き乙女しかいないようだ。
話しかけてみる。と言われても、なんと話しかければいいのか分からない。
「天気が良いですね〜」とかだろうか。いやいや、ベタすぎる。
あ、そうだ。そしたら、この前のメイド服作成のお礼とかにしようかな。
「は、春野くん」
私がそう言うと、春野くんは視線を上げ私と目を合わせてきた。
「どうしたの?」
「この前、メイド服作るの手伝ってくれて、ありがとう。おかげで、文化祭も大成功だったよ」
「ほぼ全部竹宮さんが作ったようなものじゃん。でも、そう言ってもらえて嬉しい。ありがと」
「あ、ねぇねぇ怪我・・・大丈夫?裁縫して、指に怪我したじゃん」
「あぁ、あれね。全然大丈夫。もう痛くもないし、跡も残ってないよ」
そう言って、春野くんは私に指を見せてきた。
「ホントだ。良かった・・・」
私がそう言うと、春野くんは首を傾げてきた。
「こんな怪我、心配しなくて良いのに」
「でも、私が手伝わせて怪我したんだから・・・心配するよ」
「・・・そっか、ありがと」
まだ話したいけれど、もう話題が尽きてしまった。どうしよう・・・。
「そうだ、連絡先交換しない?」
春野くんが、そう言ってくれた。良かった、まだ会話できる。
「うん、しよう」
私はそう言いながら、スマホを取り出した。
放課後、家に帰ると私はスマホのメッセージアプリを開いた。
そこには、新しく追加した春野くんがいる。それだけで嬉しかった。
さて、どんなメッセージを送れば良いのだろう。
綺麗な写真とか?・・・でも、それって迷惑になるんじゃ・・・。
そう思いながら、私はスマホの画像を漁る。確か、今日ぐらいに綺麗な空の写真を撮った気がする。
「あ、あった」
そう言い、私は春野くんに連絡してみる。
『この写真、綺麗じゃない?今日、学校の帰りに撮ったの』
というメッセージを添えて。
既読は、すぐについた。
え、はや。
『本当だ。すごく綺麗。僕も空の写真撮った』
というメッセージと共に、綺麗な空の写真が送られてきた。
『わぁ、すっごい綺麗だね』
『うん、思わず撮っちゃった。・・・僕が撮った空と、竹宮さんが撮った空、同じ空なんだね』
『そうだね。空は・・・続いているから』
なんだろ・・・。すごくベタな会話をしている気がする。僕が見ている月と君が見ている月は同じ月だよね、的な。
『瑠璃って呼んでもいい?』
唐突に、そんなメッセージが送られてきた。