第十話 口先だけに、させないから
「話をしよ」
私は、春野くんにそう言った。
「あ・・・うん、いいよ」
春野くんは戸惑いながら、了承してくれた。
「じゃあ放課後に」
私の約束に春野くんは頷いた。
でも、私は春野くんの表情を見ることができなかった。
ちゃんと前を向いて。
相手の目を、春野くんの目を見なくちゃ。
あの時と、同じになってはいけない。過去の男たちと同じになってはいけない。
自分の言いたいことを、思っていたことを伝えない生活は、もう嫌だ。
「愛想を振りまいてればいい」なんて、もう言わせない。もう言われたくない。
だからー
放課後、春野くんと向き合った私は、まだ春野くんを見れていない。これでは、『向き合った』とは言えない。
「瑠璃」
春野くんが優しく呼びかけてくれたおかげで、私は前を見れた。春野くんを、見れた。
そこには優しい笑顔を携えた春野くんがいた。
「話って、どんな内容かな?」
「この前は、呼び捨てで呼べなくてごめんなさい」
私は、気づいたらそう声に出していた。
「本当は、呼びたかったんだけど・・・」
でも、私は言い訳をしていた。口から勝手に出る言い訳に、否、自ら意図して出している言い訳に私は呆れた。自分で自分に呆れた。ちゃんと前を向くと決めたのだ。物理的に前を見るだけじゃ駄目だ。心を前に向けなくては。
「ううん、今のは言い訳。春野くんの名前を、呼び捨てで呼びたくなかった」
「ごめん、こういうこと言って。嫌いになりたければ、嫌いになって」
「うん、分かってる。春野くんの気持ちは。だから、今は私の話を聞いて」
「今までの男の人達は私が呼び捨てで呼ぶと、嫌がった。多分、私は都合の良い女だったから」
「だから、今は私の話を聞いてって言ってるでしょ。そんなに怒らないで」
「話を戻すよ?私は都合の良い女だから、変に親密そうに呼び捨てで呼んじゃ、いけなかったの」
「だって、私は”添え物”に過ぎなかったから。”引き立て役”に過ぎなかったから」
「怒らないでってば。これは事実だし、もう過ぎてしまったものだよ?今更怒ったって何にもならないでしょ?」
「もう一度、話を戻すよ?だから、私は呼び捨てで呼ぶと、どこか関係性が終わってしまうものだと考えてたの」
「その自覚はなかったんだけど、話しているうちに気づいてきた」
「春野くんはさ、優しいからきっとこう言ってくれるよね」
『関係性は終わらない』『僕と瑠璃は、ずっと一緒』『言ったでしょ、君を泣かせないって』
「でもね、私にはそんな言葉・・・これっぽっちも意味がないの」
「なぜかって?簡単だよ。今までの男たちが口先だけだったから」
「目は口ほどに物を言うっていうよね。それってつまり、口だけの言葉は信用ならないってことだと思うんだよね。私」
「だから・・・行動で示してよ」
「うん、私は春野くんを呼び捨てで呼ぶ。春野くんは・・・ううん、悠介は私に呼び捨てで呼ばせてよかったって思わせるような行動をしていってよ」
「口先だけに、させないから」




