プロローグ
竹宮瑠璃といえば、円城寺美華の小学生以来の友人である。
大きな瞳と、淡い栗色の髪。よく笑うおかげで、いろんな男の子に好かれているし、瑠璃自身、恋大き乙女であった。
と、自分語りは置いといて、今、私が恋をしているのは同じクラスの春野悠介くんだ。
理知的なメガネ、全然笑わない口角。ふと笑った時の、口角の上がり方。
全てがカッコよくて、全てが私を虜にさせた。
まぁ、このままでは面食いと思われても仕方がない。私が春野くんに明確に恋心を抱いたのは、高校二年生の時の文化祭の時だ。
なんてベタな、という声が聞こえなくもないが話を進めよう。
うちの学校の文化祭は秋ではなく、六月にある。クラスの出し物で、メイド喫茶というド定番の催し物に決まったため、急ピッチでメイド服を用意する羽目になったのだ。
私は、手芸部に所属していたため数多くのメイド服作成に携わった。
「あ、瑠璃ちゃ〜ん、私たち用事があるから残りのメイド服作り、お願いしてもいい?」
そう、三人組の女子に言われた。
メイド服は明日までに用意しなくちゃいけないのに、残りは三着。三人組の女子が手伝ってくれれば、十九時ぐらいには帰れるのに・・・。
「分かった、いいよ」
用事があるなら仕方ない。そう思い、私は残りのメイド服制作を了承した。
「ありがと〜」
そう言われ、私は頷いた後、メイド服作成に戻った。
生憎、みーさんはメニュー開発に勤しんでいるため、メイド服作成まで手伝わせることはできない。
「終わるかな、この量・・・」
最悪、家での作業かなと覚悟していると、教室の扉が開いた。
「あれ?竹宮さん?」
春野くんが教室へ入ってきた。
「春野くん・・・」
「メイド服、終わってないの?」
「あぁ・・・うん」
「他の、担当の子達は?」
「用事があるみたいで、帰っちゃった」
私がそう言うと、春野くんはくるっと踵を返した。
帰っちゃうのかな。少しぐらい、助けてくれたっていいのに・・・。
と思っていると、春野くんは私の隣に座ってきた。
「裁縫道具ある?僕も手伝うよ」
「え・・・いいの?」
「だって、メイド服明日まででしょ?僕だって、少しぐらいは裁縫できるよ」
そう言い、春野くんは針と糸を持った。
一時間後、メイド服は無事全てが完成した。
「ありがとね、春野くん」
私がそう言い、春野くんを見ると・・・。
「え、春野くん、指傷だらけじゃん!!」
そう、春野くんの指は針で刺されたような傷が数多くできていた。
もしかして、メイド服作る時に怪我したのかな・・・。
「裁縫できるよって言ってたのに、怪我しちゃったの?」
「・・・仕方ないだろ。それに、見た目はなんとかなってるんだから、それでチャラだ」
春野くんは、不貞腐れながらそう言った。
少年みたいなところもあるんだな・・・。
「痛かったけど、楽しかった」
春野くんは、口角を上げながらそう言った。
その笑顔は、大輪の花が咲くような笑顔ではなかったけれど、桔梗の花が一輪だけ咲いているかのような感じがした。
その瞬間、私はコロっと恋に落ちた。