第3小節 誕生日と迷走する想い
----10年後-----
「お~い、ご飯できてるよ〜!」
「うぅ…まだ眠いぃ〜……」
あれから私は拾ってもらった大人の女性こと、「ヒナさん」といわゆるこの異世界とやらで一緒に暮らしている。一応、義理の姉妹ということになっているのだ。
「せっかくの誕生日なのに何も買ってあげないよ〜?」
そう言ってヒナは微笑んだ。
そう、今日はヒナさんと出会った日で、この世界に初めてきた日でもある。だから今日を誕生日ということにしてもらったのだ。拾われたときが大体5歳ぐらいというていで過ごしてきたので今日で15歳か。
「は!?そうだった!でも…お姉ちゃん何でも一つ買ってくれるって本当なの?」
実際お姉ちゃんことカナさんが仕事?と言って出掛けて、丸一日帰って来ず次の日に返ってくる。みたいなことが多いのだ。それぐらい頑張ってくれているのだろうと思い私は心から感謝している。でも、そうなったのは最近のことで、前働いていた店が潰れたらしい。そこからある日突然大金を返ってくるようになったのだ。最初は驚いたが、今はおかげでそこそこ裕福に過ごしている。
「ほら早く先行っちゃうよ?(笑)」
「待って〜!って私がいなきゃ意味なくない?」
そんな何気ない会話をして、街へと出かけた。
----街-----
ザワザワと街がうるさいし人は多いし…人は少し怖いが、まぁお姉ちゃんがいるから大丈夫と言い聞かせて進む。
「何買ってほしいか決めてる?」
「ん~~決めて…ない。」
「じゃぁ決まるまで帰れ待せん!だねー(笑)」
カナさんはいつも優しい顔で微笑む。私も釣られて笑顔になる。何て幸せなんだろう…。元の世界では幸せなんて一つもなかったのにな…。本当にこの世界は綺麗でみんな幸せそう。勿論私も幸せだと思う。
そこからアクセサリーショップやら服屋やら色々なところに行って、気づけばすっかり夜になっていた。
「どう?なんかピンと来るものあった?」
「いやぁ…ごめん。いつも仕事も大変そうなのに余計に疲れさせちゃって。」
「いいや、ナリネ?私はさ、ナリネといるだけで疲れが吹き飛ぶぐらい幸せなんだよ?」
「うん…ありがとう。でも無理はしないでね……。」
「大丈夫大丈夫!」
そんな会話をしていると、この世界で過ごした十年、聴いたことのない音が聴こえてきた。だが何処か懐かしい。私はフラッと立ち寄った。後からお姉ちゃんも追いついてくる。
「これって…もしかしてピアノ……なの?」
「キレイな音だね…。確か最近出来た楽器だったはず…よく知ってるねナリネ?」
「…」
私は激しく動揺した。目の前にあるグランドピアノ…この世界に来て音楽について触れずに生きてきた人生だったから…。忘れたかった。なのに口が勝手に動いたのだった。
「欲しい…でも怖いし辛いし憎いし嫌いだよ……」
「え……?」
「でも…好きだったんだ…好きだったの…」
そう言って泣崩れる私に静かに寄り添ってくれた。
「どうしたの?」
背中をさすりながら優しく聞いてくれる。でもその時の私は混乱していたから、思いついたことをそのまま言った。
「お姉ちゃんごめん、変なこと言ってごめん。これ…でいいかな?」
「本当に…これでいいの?」
不思議そうに私に聞き返す。
「うん、音楽…。やっぱり私捨てられないや。」