英雄物語 ─序─
世界は魔で満ちている。
何にでもなれるし、全てを可能にする。
始原、彼らは共に在った。
ただ現前する彼らを、人々は神霊と呼んだ。
彼らは、世界であり、調和であり、また、人間にとっての宿命でもあった。
人は、彼らと寄り添い、営む。
デウス
テンビ
ルーキ
神霊の中でも、祖たる彼らを三神と称し崇め奉る。
調和の下、神霊と人間は共生を遂げていた。
だが、その調和は混沌へと堕ちていく。
ある時、誰かが言った──それは悪神だと。
星の獣を率い、大地を焼き、空を裂く──その姿は闇そのものだ、と。
悪神 ルーキ──混沌たる元凶の名。
そして、星の獣である星霊──常軌を逸した力を持ち、悪神へと服従する意志のない獣たち。
彼らは、意志のない死を生者に齎し、混沌へと追従する。
世界は、忽ちに闇に呑まれてしまった。
だが、闇の中にも光は在る。
決して消えることのない一筋の光。
それらは集結し、やがて、眩いばかりの閃光となりて混沌の世を照らし始める。
神霊デウスの御許、世界を光で照らさんとする者たちを星征隊と呼ぶ。
剣が折れようとも、魔力が尽きようとも。創星紀の英傑──イギリカ・デウス=イニティウムの偉力の下、彼らは命を繋ぎ、調和を謳い、混沌に抗い続けていた。
そして、多くの星霊たちを打倒するにまで至った。
しかし、混沌は濃く、深い。
抗い続ける光も長くは続かず、やがて、か細くなり、散らされ、閃光は深淵へと呑み込まれていく。
もはや抗う術はない。
手を合わせ、人々は天に祈るしかなかった。
その祈りが天に昇ったのか。
闇の中、全ての希望が潰えたかのように思えた絶望の最中、再び光が差し込む。
混沌を貫く一筋の光。
その鋭き眼光は、何者にも惑わされることのない強い意志を秘めた瞳。
その猛き咆哮は、大気を突き抜け、大地を震わす。
百戦錬磨。鎧袖一触。すべての星は、彼の偉力の下に墜とされた。
その希望の名は。
アルマ・デウス=イニティウム──初代イギリカ王の至宝の子。
希望の力は全てを凌駕し、超越する。
混沌たる元凶──ルーキの力でさえも。
その光は長きに渡る戦いの末、人々に調和を齎した。
──『人の時代』の訪れを。
悪神は封印された。人間は宿命という楔から解き放たれた。
水・火・風・光・闇──五つに分かたれた悪神の魂は、巫女と共に調和に微睡む。
勝ち得た調和は人の時代。知り得た歴史は人の未来。
時代を変えたその戦は、『聖戦』と呼ばれた。
時代を変えたその者は、『英雄』と呼ばれる。
『英雄物語』──ユニ=スカイブルゥの記述より抜粋