至福の時
夜の帳が落ちて来ている時間帯、駅から自宅への帰り道で私をつけて来るものたちがいた。
足音は聞こえない、でも、歩きながらサッと振り向くと電柱の後ろや生け垣の向こう側に影が見えている。
帰り道の途中にある公園が見えて来た。
見ては駄目だ、今日は公園に寄れないだから見ちゃ駄目なのだ。
妻に帰省する日時の確認をするから今日は早く帰って来てくださいね、って朝出勤する前に釘を刺されているから。
日時の確認と言っても妻が立てた計画に頷きを返すだけなのだが。
駄目だと思いながら公園に足を踏み入れてしまう。
途端、私をつけて来たものたちだけで無く公園の至る所から猫ちゃんたちが駆け寄って来る。
「「「ニャアァーン!」」」
公園のベンチや砂場の側には猫ちゃんたちに囚われた人たちの姿が。
「「「ニャーン!」」」
「はい、はい、チュールですね、今出すから待っててねー」
鞄からチュールを取り出し猫ちゃんたちに与える。
猫ちゃんたちにチュールを与えながら、公園のベンチで子猫ちゃんたちを無心に撫でているペット不可の社宅住まいの男子小学生や、砂場の前で猫ちゃんたちに餌を与えながら撫でているお母さんと弟さんが猫アレルギーの女子高生に声をかけた。
「もう7時過ぎだよ、そろそろ帰らないと親御さんが心配するよ」
私の声掛けに我に返り腕時計やスマホで時刻を確認した2人が、「「小父さんも程程にね」」と私に声をかけ、名残惜しそうにそれでも慌てて帰って行く。
うちは妻が犬派で飼い犬のガブリエルも大の猫嫌いのため猫を飼えない。
妻の般若顔が脳裏に浮かんでいるけど、猫ちゃんたちと戯れる至福の時を過ごした後ならば、妻の叱責も耐えられると思うんだ。