表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喫茶店のあの子  作者: K
9/9

9

 数日後、滝谷とゲーム部のいつもの仲間は喫茶店を訪れていた。


 席に座り、やってきたのは工場で検査を終えたアンドロイドのエミだった。


「水をどうぞ」


 三人分の水をテーブルに置くと、彼女はにこやかな顔で、


「メニューが決まりましたらまた呼んでください」


 と、テーブルを後にした。


「接客用のロボットだけあって、滝谷が恋に落ちるくらいの可愛さだよな」


 吉富が言った。


「工場で初期化されちゃったんだろ? 今までの積み重ねが全てパーだな、滝谷くんよ」


「最初に教えてくれといたらあんな無駄なことはせずに済んだんだ」


「まあ、そういうなよ。これで滝谷もニュースとかネットに興味持ったろ。いい勉強代だと思えばいいさ」


 確かに彼はあの件以降、ニュースやネットの記事に目を通すことが多くなった。

 あのアンドロイドは三ヶ月前にある企業が開発した世界初の接客型アンドロイドだったそうだ。


 ニュースでも話題になったし、佐伯や吉富も知るほどの知名度だったが、あいにく滝谷はその時のことをまるで覚えていない。


「さあ、メニューを選ぼうじゃないか」


 彼らはメニューを選び、エミを呼んだ。


 席に来たエミを見て、滝谷はいまだに彼女を心の奥底で想う気持ちが残っていることを実感した。

 叶わぬ恋だったが、仕方あるまい。


 彼女はアンドロイドだったのだ。

 諦めるしかないのだ。


「カフェラテのアイスが2つと、アイスコーヒーを一つですね」


 エミが選んだメニューを復唱する。


「しばらくお待ちください」


 そう言って席を後にしようとしたエミは、ふと足を止めた。

 そして、滝谷に声をかけた。


「映画の話、店長に聞いておかないとですね」


「え?」


 笑顔を残して彼女は席を後にした。

 

 滝谷は狐に摘まれたように何が起きたのか分からずしばらく唖然としていた。

 他の二人も同じだった。


「あれ? 初期化されたから記憶はないはずだろ?」


 吉富が言う。

 

「なんで彼女、俺のことを覚えているんだ?」


 困惑の時間が数秒。

 佐伯が不意に乾いた笑いを漏らした。

 

「恋は奇跡を起こすってやつかもな」


 奇跡?

 滝谷は心に沸き起こる感情を確かめていた。


 もしかすると、もしかするかもだ。 

 障壁は大きいかもしれないが、こう言うこともありかもしれない。


 もし彼女がまだ覚えているなら。

 彼はそのチャンスにもう一度かけてみようと心の中で思ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ