8
約束の日がきた。
講義が終わると、滝谷は部室に寄り顔を出した。
「ついにデートに誘ったぞ、今日がその返事の日だ」
滝谷は言った。
きっと驚かれると思ったが、佐伯は妙な反応をした。
「今日は彼女に会えないぞ」
「え? どうして。店に行ったのか?」
「いや、あれだ。あれ。とにかく彼女のことは忘れた方がいい」
「よく分からないな。一応、店には行くよ」
「あ、待てよ!」
妙な佐伯を残し、彼は喫茶店へ向かった。
喫茶店に入り、エミを探す。
しかし、彼女の姿はどこにもなかった。
「店長、エミさんはどこにいるんですか?」
滝谷は店長に聞いた。
店長は残念そうに口を開いた。
「彼女は不具合が見つかったから、工場の方に返品されたよ」
「工場?」
「あれ? もしかして知らなかったのかい。彼女がアンドロイドだって」
アンドロイド?
彼の頭の中でその言葉が何度も反芻された。
あの彼女が? アンドロイドだって!?
エミの笑顔を思い出す。
そんなばかな。
「まさかからかっているわけじゃないですよね」
「ニュースを見ていないのかい? あの量産型アンドロイドが回収されてるのがニュースになっているはずだけど」
彼はここ数年までニュースを見たことがなかった。
もちろんネットも見たことがない。
だから彼は驚いた。
その時、喫茶店のドアが開き、佐伯がやってきた。
「おい、佐伯。初めっからアンドロイドだって気付いていたのか?」
「悪い。お前の反応が面白くてずっと黙ってた。ごめんよ」
「嘘だろ?」
だが、彼女がアンドロイドなら納得のいくことも多々ある。
あの雨の日にすれ違ったエミは、別の量産型アンドロイドだったのだ。そして、彼女が映画を今までに一度も見ていないと言ったのも、なぜこの街にきたのかも納得できた。
「ほら、ネットニュースにもなってる」
佐伯はスマホの画面を見せてきた。
その画面には、写真が載っていた。工場に大量に並べられたそのアンドロイドの姿は、まさしく彼が恋に落ちていたエミそのものだった。
彼は気が遠くなるのを感じた。