6
滝谷は外に出ると、傘をさして喫茶店までの道を歩いた。
冷たい雨だった。
こんな日は早く喫茶店にでも行って暖まりたい気分だ。
喫茶店に行くまでには何回か信号待ちをする必要があった。
運悪く滝谷は信号待ちに引っ掛かった。
通り過ぎる車をボーッと眺めていると、やがて信号は青になった。
向こうから何人か人が来ているので彼は脇に逸れて横断歩道を渡る。
その時、彼はその人たちの中に傘をさした見慣れた人物の姿を発見した。
ビニール傘でやや顔は隠れているが、判別はできた。
「エミさん、こんにちは」
見間違うはずもない。
彼は声をかけた。
しかし彼女は彼に目を止めることなく、すれ違った。
「え?」
彼は横断歩道に振り返った状態のまま横断歩道で立ち尽くした。
無視されたようだった。
なぜ無視されたのだろう?
信号が赤になりそうだったので、後ろ髪を引かれるような思いのまま、信号を渡り切った。
何か悪いことでもしたのだろうか。
逡巡したが、何も思い当たることはない。
ということは、単に気づかれなかっただけかもしれない。
彼はそう考えた。
今喫茶店に行ってもエミはいないだろう。
行く意味もないが、結局彼はいつもの通り店に入ることにした。
傘を入り口に立てかけ、席に座る。
そこに、店員がやってきた。
「今日は雨日和ですね」
耳慣れた声だ。
目を上げると水を持ってきた制服姿のエミが目に入った。
「あれ? なんで君がここにいるんだい?」
「いちゃまずいですか?」
確かにさっき横断歩道ですれ違ったはず。
じゃああれは誰だ?
彼は動揺しながらも、思考を働かせた。あれは似た別人だったのか?
そうとしか考えられなかった。