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滝谷が喫茶店に出入りし始めてから一ヶ月ほどが経った。
それは金曜日のことだった。
いつものように窓辺の席で、注文したサンドイッチを食べていると怒号が飛んできた。
「虫が入ってるじゃないか!」
後ろの席だ。
振り返ると初老のいかにも気難しそうな男がテーブルに置かれているアイスコーヒーを指差し、ウエイトレスのあの子に絡んでいる。
「すみません。新しいのをご用意しますので」
「もうだいぶ飲んでしまった。そのせいか気分が悪い。ちょっとくらいサービスしてもらっても良いんじゃないか?」
「すみません。それはできません」
「話にならん。店長を呼んでこい店長を!」
実に嫌な客だった。
他に客はいなかった。
早く店長が来て話を収めてくれればよかったのだが、あいにくと店長は留守のようだった。
「店長は今いないので対応しかねます」
と、ウエイトレスが言うと、さらに男は怒りをヒートアップさせたようで、ついに決定的瞬間が訪れた。
「この馬鹿店員が!」
男は手にアイスコーヒー入りのコップを持ち、それをウエイトレスにぶちまけた。
あの子は突然のことに固まってしまっていた。
制服は濡れてしまい、ポタポタと滴が落ちていた。
ここにきて、やっと滝谷は男に声をかけた。
「おじさん、何やってるんすか」
男は予期せぬ人物に声をかけられて怒りの矛先を変えた。