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「今日は学食で食ってかないのか?」
大学の昼休み、部室棟のサークル部屋を抜け出そうとした滝谷に佐伯が尋ねた。
「外で食べてこようかなって思ってる」
「ははあ、要するにあのウエイトレスさんに会いに行くんだな?」
滝谷もいい加減めんどうくさくなってきたので否定はしなかった。
すると佐伯はにやけ顔でこう言うのだった。
「あの子は高嶺の花だぜ。果たして滝谷に手に入れられるかどうか」
「そんなにライバルが多いのか?」
「いや、そういう意味ではないけど、障壁はかなりあるかもな」
「なんか引っかかるな。何か隠してんのか?」
「まあ頑張れ」
そう言うと、彼は部室に置かれていたVRゲームに手を出し、遊び始めた。
ヘッドセットをかぶっているのでもう滝谷の声は聞こえない。
仕方なく滝谷はモヤモヤしたままサークル部屋の扉を閉めて、冬の凍えるような風の中、喫茶店へ向かった。
彼は彼女の姿を見るために、毎週火曜日と金曜日の同じ時間に来店することにした。
喫茶店は大学のほど近くにあった。五分も歩けば辿り着く立地だ。午前の講義に出て、昼休みにフラッと訪れ、午後の講義に向かうにはちょうど都合の良い場所だった。
そのため店内には他の大学生も何人か見かけることがあった。
高嶺の花か・・・・。
あんなに綺麗な子だから他にも狙っている人がいてもおかしくない。
だが彼には手が届きはしないだろうと薄々感じていた。
しかしその予感は外れることになる。