第二話 思い
「お前の事が...好きなんだ!」
緊張からか彼の手の甲には汗が滲み、足は立つのもままならないぐらい震えている。
「へ...へぇぁ?」
顔がのぼせるぐらい熱くなるのを感じた。
「それって、...友達として?」
「い、異性としてだよ!流石に分かるだろ!!」
「だ...だよね。」
顔の熱は徐々に耳や首まで広がっていくように感じた。
蒼太が...私の事を異性として...好き
頭の中がぐちゃぐちゃになって何も考えられなくなっていった。
「あ、あのさ!」
やがて彼は口を開き
「分かってるから...お前は俺の事を、友達として接してくれてるって。」
彼は俯きながら哀しい声色でそう言った。
「ごめんな、急に変な事言って...じゃあな!」
彼は颯爽と公園を出ていき、そのまま走り去っていった。
「ちょっ、ちょっと!?」
私は頭の整理もつかないまま、直ぐ彼の背中を追いかけようとした。
「もう見えなくなっちゃった...。」
流石元陸上部、街の暗さも相まって後ろ姿を見失ってしまった。
「...帰るか。」
彼の言葉が永遠に頭の中で響き続けていた。
気が付くと私は自宅の玄関前に立っていた。
「もう家に着いたのか。」
鞄の外ポケットから家の鍵を取り出し家の鍵を開けた。
「ただいまー」
私の家族は四人家族の一般的な家庭だ。
母親は専業主婦、父親は公務員そして兄は四月から大学四年生
「おかえりー、夜ご飯出来てるわよ。」
玄関でスリッパに履き替えていると、キッチンの方から母親の返事が返ってきた。
「今日は千鶴の大好きなアスパラベーコンよ♪」
やけに上機嫌だな...。そういえば、昨日私が卒業式だからってやたら張り切ってたしその影響かも。
「卒業式お疲れ様、凄く良かったわよ。」
「んー、うん。」
正直それどころじゃない...、と思いながら食事の前の椅子に座る。
流石に分かりやすかったのだろう。
「どうしたの?何かあった?」
母親は向かいの椅子に座り、私の顔を覗き込みながらそう言った。
「どうせしょうもない事だろ?五百円玉を自販機の下に落としたとかよ。」
リビングのソファで横になりながらテレビを見ていた兄が茶化すようにそう言った。
「お兄ちゃん...また髪染めたの?昨日は確か水色だったよね。」
「違ぇよ!ブルーサファイヤだ!」
「どうでも良いし...。」
私の兄 桜 慎二は元々私と同じ茶髪だったのだが、大学に通い始めてから毎週のように髪の色が変わっている。
さながらカメレオンのように。
「そんな...大した事じゃないから、気にしなくていいよ。」
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彼女の好きなところは無限にある。
外見的な所なら
背中の半分が隠れるぐらい長い茶髪、桜色の健康的な爪
スタイルも良いしまつ毛も長い、特に下まつげが長い。
内面的な所なら
困っている人が居たら手を差し伸べる優しさ
話してみると面白い
私服のセンスはダサいし、空気が読めなくて唐突に爆弾発言を投下したりする。そんな所も好きだ。
嘘をつく時耳を触りがちな所も、テストでいい点数を取った時「当然だし?」と、すました顔で報告して来るけど本当は嬉しくて口角が上がりそうなのを我慢している事も
全部...全部好きだ。
彼女を一言で表すなら正直な女子だ。
彼女の良いところ悪いところ、全部正直に生きるという彼女の人生観から来ているものだ。
自分に正直だから周りから誤解される事もある。
クラスのノリについて行けなくて冷めた行動を取ってしまいクラスから軽蔑されたり、相手の気に入らない所を本人に向かって口にしてしまったりしてよく敵を作っている。
思った事を何でも直ぐに行動に移してしまう...
それは決していい事ばかりでは無い。
自分に正直に生きるのは難しい。
だからこそ、俺には彼女の生き方が美しく見えた。
彼女の優しさは繕いでは無く本心なのだ。
「はぁ...。」
だからこそ、怖かった。
引っ越す事になったと、彼女に伝えたら分かってしまうから。
彼女が自分の事をどう思っているのか...。
もしかしたら、俺達両思いなんじゃないかなと、心の奥底にあった淡い期待が消えてしまうから...。
結果としては、脈なしだった。
東京に住めるのが羨ましいと言われてしまった。
俺は部屋の電気を消して布団にダイブした。
そして、家族に聞こえないように枕に顔をうずめて静かに涙を流した。
「うっ...ぐすっ。」
引き止めて欲しかった。悲しんで欲しかった。
後悔だけが頭に残る。