6話 カウント
「あのヨルムンガンドの頭が1発で凹んでしまうなんて――」
「おい! こいつの生命力はどれくらいだ?」
「え、えっと……190000000――」
「今の状態なら肉弾戦でもリスクはほぼない。となれば体力、疲労の度合いを考えて魔法はセーブで……。さぁ、正々堂々真正面からの殴り合いをしようじゃないか」
「う、うあああああああああああああああああああああああ――」
「一発で約1000の生命力を削れるとして……あと18、17、16、15、14、13、12、11、10」
『ダメージ200000000超え。欲深い人間たちの身に報酬を分配付与。……。より高価、或いは希少な報酬を得たいならばヨルムンガンドを含む各場所に存在する特殊なモンスターの討伐に挑め。期限も報酬も有限だ』
ヨルムンガンドの叫びを無視して繰り出されるアオの打撃はその威力からヨルムンガンドを火のない場所まで吹っ飛ばし、更にはその身体を歪なものにさせる。
このままなら間違いなく勝てる。レイドボスを2人で……。報酬をたった2人だけで得られる。それは嬉しい、本当に嬉しい。でも……。
「ア、アオ!! は、早く!!」
私と地面までの距離はまもなく0。
さっきまでいた場所にはヨルムンガンドの魔法によって沼は出現済みで、つまりはアオがヨルムンガンドを倒して駆けつけてくれるのが先か私が沼に呑まれて死ぬかの瀬戸際ってわけ。
……。アオからの返事がないけど大丈夫、大丈夫だよね? もう、もう、もう限界近いんですけど……。
「はぁはぁはぁ……。3、2……」
「は、早く0って言ってえええええええええええええええええええ!!」
「いぃっぃぃぃぃぃぃぃちぃぃいいいいいいいいいいいいいいいい……」
「うあ?」
息を切らすアオはカウントを進めながらヨルムンガンドの尻尾部分を掴み上げ、そしてその巨体を今度は私の落下予定地点まで投げ飛ばした。
「う、ぐ……。うあっ!」
まだ息のあるヨルムンガンドは落ちてくる私を見てその口を大きく開けた。
もしかして私を最後の晩餐にしてしまう気なのかも……。
「きゃ、きゃあああああああああああああああああああああああ――」
「うがああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「0!! ……。って――」
『ヨルムンガンドを討伐。欲深い人間たちの身に報酬を分配付与。……。より高価、或いは希少な報酬を得たいならば各場所に存在する特殊なモンスターを更に討伐せよ。期限も報酬も有限だ。この世界が成功した世界となることを祈っている』
食われるかもしれないと思って叫びながら目を瞑った。するとお尻の辺りには柔らかい感触、耳にはヨルムンガンド討伐の知らせが……。
これってアオが間に合って私を受け止めてくれたってことよね?
「はぁぁぁ……。もう駄目かと思った……。怖かったけどなんだかんだ最後間に合わせるのは流石だったわ。ありがとう。もう降ろしてくれても――」
「俺は間に合っていないし、降りたければ自分で降りればいい。ふっ……。まさかそこまで生命力がギリギリまで削られていたとは。いや、もしかするとヨルムンガンドの弱点は嗅覚だった可能性が……」
「え? あなた何言ってるの? ……というかなんであなたがそこに? だったら私のお尻に当たっているのは……」
視線の先に映っているアオの姿に違和感を感じて、私はそおっと自分のお尻の下に敷かれているものを見た。
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