3話 不動デバフ
「《アタックダウンⅣ》」
「馬鹿! デバフを掛ける前に攻撃を避けなさい!!」
アオは一向にヨルムンガンドの攻撃を避けようとせず、それどころか効果時間が短いとされるデバフ魔法を発動し続けていた。
このままなら100%直撃。
魔法使いは後方から攻撃、或いは前衛の強化が主であることから肉体的鍛錬を捨ててより多くの種類、そして上位の魔法を使えるように時間を割く。
つまりいくらA級冒険者といっても驚くほど打たれ弱い。致命傷は避けられない。
助けてあげたい気持ちはあるけど、1度その場から離れてしまった私とアオとの距離じゃもう……。
「くっ……」
人が死ぬ。それが高い確率で訪れるという恐怖から私はギュッと目を瞑った。でもこうしたところで数秒後には骨が折れ、内臓が潰れる音が聞こえて――
「うがぁぁぁぁあっぁぁぁ……」
「物理攻撃はもう効かない、か。このままでも十分戦えるが……悪いな、俺はとことん心配性なんだ。《マジックパワーダウンⅠ》《マジックパワーダウンⅡ》《マジックパワーダウンⅢ》《オールダメージポイントダウンⅠ》」
「そんな……。あの攻撃を片手でなんて……。本当に魔法使い、なのよね?」
「う、ぐおおおおおおおおおおおおおお!!」
尻尾を打ちつけたというのにあっけらかんとしているアオの姿を見て、ヨルムンガンドは地面を這ってアオとの距離を取った。
一瞬逃走し出したのかと思ったけど、ヨルムンガンドの顔からはまだ戦闘意欲が漲っている。
「う、ぐおお……」
「あれは……。まずいわ! 地中から巨大なトゲが――」
「う? ぐお?」
「確かにトゲは出ている、が。3段階も魔法の威力を下げていればこの程度だ」
ヨルムンガンドが尻尾を地面に突き刺すとアオの足元にゆっくりと鉛筆ほどの細いトゲが作られ始めた。
アオはそれを無表情で見下ろすとさっと後ろに下がって一蹴。
ヨルムンガンドは疑問符を上げながらも懲りずに何度も何度もトゲを生み出すがいくら繰り返したところで、そのトゲの勢い大きさは鉛筆サイズ。
30人全員で戦っていた時は、勢いよく生み出される巨大なトゲによって何人もが深めの切り傷をつけられていたのに……。
「凄い。上級のデバフって重なるとこんなに強力だったの? というかそもそもデバフって状態異常と違って効果時間が1秒とか2秒とか極端に短くて重ね掛けなんてできないはずじゃ……」
「そろそろ攻撃に移るか。……《ファイア》」
「ファイ、ア?」
ヨルムンガンドに向けて右の掌を翳したアオが言葉にしたのは火属性10級で最低火力でも有名な魔法の名前。
でも私の目に映っているのはもっと上級の、最高位魔法使いしか使えないと言われている3級以上の魔法を想起させるほどの業火。
ヨルムンガンドの攻撃をデバフでいなせるっていうのは理解できるけど、なんで《ファイア》がこの威力になっているの?
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