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1話 絶体絶命

「くそ……。Aランク冒険者が30人がかりだってのに……」


「流石この区画の狂魔化モンスターの発生源、レイドボスは伊達じゃないな。ま、現時点で犠牲者が出ていないだけ良いんじゃないか?」


「そうだな……。なんでも今回の作戦に参加している冒険者の中にはA級に上がったばかりの奴もいるって話だし、それを考えれば――」


「全員、睡眠魔法が効いている今の内に撤退を! 悔しいけど私たちではこいつとの300年の歴史に終止符を打つどころか……。ダメージ報酬を得る前に全滅するわ!」


 私が発した指示で仲間の冒険者たちはレイドボスのテリトリーから抜け出ようと移動を開始。


「はぁ、大事な大事なお金ちゃんたちを使い込んで準備を整えたっていうのに……。本当に『ルタ王国』の冒険者たちはこれを倒せたっていうの?」


「――レイナさん! 事前打ち合わせ通りしんがりはお願いします!」


 撤退の際は自分がしんがりを務める。これはレイドボスに挑む冒険者を集めるために用いた交渉材料の1つ。


 レイドボスに睡眠魔法が効くことを知っていたから今の今までそこまで不利益になる要素だとは思っていなかったけど……。


 こうして実際にレイドボスと戦った後だとその強さを理解してしまって、自分がどれだけのリスクを背負った交渉していたのかを思い知らされるわね。


「了解。レイドボスに異常が見られた場合直ぐに合図を送るわ。その際は全員に配布済みの敏捷性上昇のスクロールを使用するように指示をお願い。それで、その、使用しなくても大丈夫そうな人には申し訳ないんだけど……」


「分かってます。あくまでスクロールは最終手段。これだけ高価なものなら回収したいと思うのが当然ですよ。敢えて口にする人はいませんでしたが、滑り込みで参加した冒険者も含めて全員そのことは理解しています。それでは私もそろそろ……。無事をお祈りしています」


「……。ありがとう、副官」


 副官として人数集めの段階から働いてくれていた冒険者のエルさんはそう言って軽く頭を下げると、申し訳なさそうに駆けだした。


 利益関係のみで繋がっていると思っていから、まさかこうやって情を掛けてくれるなんて……。


「……。それでも私にとっての1番がお金なことに変わりはないけど……。ま、ただやっぱり人の優しさに触れるっていうのは活力が湧くわね。《ステータスシアー》《ホワイトブロウ》」


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名前:ヨルムンガンド


状態:睡眠(魔法効果):残り時間中、アタックダウン、マジックレジストブレイク:


生命値:3400521991


スキル:アシッドアーマーⅢ、ポイズンファング、ポイズンガード、アタックパワーリリースⅠ


保有魔法:グランドフォール(地属性4級)、アースバインド(地属性5級)、サンドニードル(地属性7級)、ストーンバレット(地属性7級)、サンドフォール(地属性8級)……。以下当スキル発動者のみ表示可能。


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「睡眠時間は中か……。《ホワイトブロウ》で視界を悪くもしているし、退避時間は十分だとは思うけど……。アタックダウン? マジックレジストブレイク? ちょっと前に確認した時からデバフの効果が継続してる? ってそれよりも私も早く――」


「ぐ、お……」


「え? 嘘……。だって、そんな……。《ステータスシアー》で見た情報と違うじゃない……」


 《ステータスシアー》はモンスターや人の情報を覗くことができるスキルで、今までそれによって表示された情報が間違っていたことなんてない。


 だから残り時間が減った原因として考えられるのはレイドボス……ヨルムンガンドが今の一瞬で新しくスキルを得た、或いは《ステータスシアー》を使用しても視認できない特殊なスキルか魔法を元々保有して――


「ぐお、あっっっ!!!」


「まずいっ!」


 思考を巡らせているとヨルムンガンドは私が魔法によって生み出した白い霧の中によろよろと突っ込んでいった。


 目先にいる私ではなくテリトリーの出入口に近い冒険者を狙うあたり、ヨルムンガンドの知能の高さが窺えるわね。


 もしかしたら、最初から睡眠魔法をわざと受けて油断した私達を背後から喰らうつもりだったんじゃ……。


「と、とにかく、危険な状況に陥ってしまったことを伝えないと……。ファイアライ――」


「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 危険を知らせるための魔法を発動させようとすると、白い霧の中から冒険者の絶叫が届き、さらにはどろりとした液体が……。


「もしかして身体に纏わせるだけの《アシッドアーマー》を攻撃に転用した? そんなの、目くらましの白い霧があったところで……。くそっ! 《ファイアライト》!」


 睡眠だけでなく白い霧による目くらましさえ簡単に攻略された。とはいえ、まだスクロールを使ってテリトリーを出ることができる冒険者がいるかもしれない。


 そう思いながら私は祈るようにして《ファイアライト》を発動。頭上は赤黄色に照らされ、それと同時に《アシッドアーマー》として機能していた酸が私の靴先を少しだけ溶かした。


 このまま酸の無いところへ逃げてもいつかはテリトリー内に酸が満ちて私は死ぬ。急いで駆け出してもここからじゃテリトリーを出るまでに脚が溶けて……。


「こういうのを八方塞がりっていうのかしら。あはは。あっけない最後だった。はぁ……。この歳まで独身、しかも処女で死ぬなんてね……。もっと女らしく生きてみたかったわ。……つっ」


 天を仰ぎながら笑いを溢していると遂に片方の靴の底が溶け、足裏を溶かし始めた。


 ……怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。


「死にたくない……。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!! いやあっ! 助けて誰か! 私まだ死にたくない! いやっ! いやあああああああああああああ!!」


 酸による痛みで一気に押し寄せる恐怖。大量の尿が自然と股間を濡らしていく。


「た、助けて、お母さん――」


「――《アタックダウンⅡ》《マジックレジストブレイクⅡ》……《スキルレベルダウンⅡ》」

お読みいただきありがとうございます。

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