一人だけ別ゲー・システム
ブラックコメディだのダークコメディだのと呼ばれるネタです。
その辺を意識しておいて下さい。
あ。 いきなりですが私、異世界転生をしたみたいです。
急ですか? ごめんなさい。
でもそうとしか思えない事態なんで、そう言わせて頂きます。
だって私は地球のJKをしていた、ちょっと手芸ができて読書と乙女ゲームが好きなだけの、陰の者だったんですよ?
それなのに気が付いたら中世ファンタジー風の世界で、子爵の4女とか言う超絶地味な令嬢になっていたんですよ?
しかもこの姿。
三つ編みお下げが似合う髪質の茶髪に、ヘーゼル色した地味な色の瞳。
そばかすの残る人並みな顔立ち。
そして同年代では微妙に低い身長と、オール平均値なスタイル。
アドベンチャー形式の学園恋愛ものなのに、期間が3年ある長ーいシナリオで有名な乙女ゲームに出てくる、主人公の親友枠の子。
この子は特殊で、友情エンドで主人公との永遠の友情を結ぶ記念にってアクセサリーを贈るんだけど、それに意図しないで強力な守護の魔法を付けちゃう能力をもっているんです。
そんな才能を自覚してなくて、発動じたいが自動って言う曲者。
違うルートでも、ここぞって言うタイミングで良いサポートをしてくれる、スーパーサブの称号を欲しいままにする女の子。
凄いよね。 こんな女の子に私がなっちゃって、今からちょっとビビってます。
それでですね?
今10才で困ったことが起きたのですよ。
主人公の攻略対象の一人となってる私の弟から、革で装丁された手帳をプレゼントにもらいました。
それは良いんですよ。
大切だから前世の特技を活かして、布のカバーを縫って被せたんです。
その縫ってる時にね? 私が学校へ通うようになったら、原作通り主人公と仲良くしなきゃダメなのかな? 今主人公は何してるのかな?
とか考えながらだったのが悪かったのかな?
カバーを被せた手帳が、魔道具になりました。
しかもどんな魔道具かって言うと、主人公を完全に追跡できるストーキング手帳。
地名込みで現在位置と周囲100メートルの地図や情報がうかび上がるページとか。
…………今は自宅かな?
主人公の交遊関係や親密度が勝手にメモされるページとか。
…………あ、なんか男の子とばかり仲良くなってる。
特に攻略対象の幼馴染君と仲がいいみたいね。
あ。 でも幼馴染君に注意書きでヤンデレ化注意って書いてあるね。 おかしいな、幼馴染君って元気なワンコキャラだったはずなんだけど。
それと学校に通うようになってから知り合うはずの攻略対象君達の、一部とも知り合ってるのは何で?
あとはアドベンチャーゲームで不要なはずの、数値やスキルなんかが表示される、ステータスページとかも有ったの。
これによると【男たらし】や【聖女の卵】とか称号に書かれてて…………あ。 【転生者】の称号持ちでもありすね。
これはヤバいですよ。 ヒロイン転生と言えば、高確率で破滅フラグ。 将来に学校で会っても距離をとりましょうか。
とまあ、こんな感じでヤバい魔道具が出来てしまいました。
これって間違いなく、例の自動発動する魔法付与のですよね。
ああ、厄いですね。
でもこれがあれば……いえ、あるからこそゲームでスーパーサブ的活躍ができたのかも知れません。
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この手帳を作ってしまってから、半年。
時々開いて主人公のようすを見ているんですけど、あの娘は本当に凄いですね。
交遊関係が見事に男の子ばっかり。 女の子との親密度は最低。
1・2ヶ月くらい、ずっと幼馴染君の家にある地下室に居座ってたりしてた事も有りましたから。
アレですかね。
女に嫌われる女の代表。
カマトトでぶりっ子であざとくてカワイイ(笑)の塊みたいな娘。
一応、とてもあり得ない可能性として、男性が主人公の女の子へ転生しちゃったパターンかも知れませんが。
……でもアレですね。
幼馴染君が本気でヤバいです。
今まで稀にですけど、男の子の名前の隣にタイマー付きダイナマイトマークが出てきてたんですよ。
それでタイマーが0になると[ドカーン]と爆発して、みんなの親密度が少し下がる事が。
そもそもとしてアドベンチャー形式のゲームにはこんなシステムは無いはずなんですけどね。
親密度だってルート確定させる為のポイント程度な扱いだったはずなのに、具体的な関係も手帳は記していますし。
どこでこんなシステムが混入したんでしょうか?
でもまあこんなのでも不思議なことに、幼馴染君の親密度は悪化せず、逆に上昇。
それでですね? それを何度か繰り返してたら、幼馴染君の注意書きが変わっちゃったんです。
注意だったのが警告に変わって、またしばらくして最後には【ヤンデレ化しました】って。
………………主人公はこれ、どうするんでしょうね?
こんなの原作改変とか、そんなレベルじゃない話になってきてますよ。
ちょっとステータスを見てみましょうか。
…………うん。
スキルに【房中術】が増えてます。 それと称号が【聖女の卵】から【性女】に変わってますね。
これドン引き案件ですよ。
主人公は私と同い年。
べつに貧しい家とかの設定も無かったので、必要にかられて身売りって線は無いはずですし。
こんな歳で男を食い荒らしてるんですか?
いつか誰かから、口に出すのが憚られるモノじゃない、真っ当な意味で刺されま………………あ。
あ。
あああ。
あ、待って。 ヤバいですって。
いや本当に待って!
主人公の体力がどんどん減ってますって!! 状態異常欄に気絶・出血ってありますもん!
言わんこっちゃない!
これ、刺されましたよっ!
刺したのは誰?
マップだと周りに男の子が一杯いて分かりにくいけど、唯一うごいているのは……ヤンデレ化した幼馴染君かぁ。
主人公達の居場所までは、私では半月位かかる距離だからどうしようもありませんし。
親密度はどうなってますかね?
えーと………………あ、はい。
見なかったことにしましょう。
具体的な関係の表示に【永遠にボクのモノ】とかあって、そんなの読みたくありませんでしたよ。
まだ他の男の子達に書かれた【秘密の遊び仲間】ってある方が、安心して軽蔑できますもの。
主人公の体力は…………あ。
思わずお手々のシワとシワを合わせてしまいました。
これ、アレですね。
結論として、学校で主人公の親友にはならない。
将来の比較的平穏な生活が約束されました。
開発の責任者インタビューで、このゲーム世界は主人公がいなければ平穏だった。 いわば壮大なマッチポンプ。
とか、開発会社から酷い扱いされてましたから。
さて。 休憩のつもりで見てた手帳は今後封印するとして、刺繍の続きをしましょうか。
いや~、なんだか衝撃的すぎて休んだ気がしません。
なんでしょうかね、私はああなりたくありませんよ。
やっぱり男女関係は誠実でいるのに限ります。
それと、もし理不尽に事件とかに巻き込まれても、身を守るすべが欲しいですよね。
こう……結界を自動ではれる魔道具とか?
………………あ?
あ。
なぜか光って…………はい。
私の魔法付与が発動する条件がわかったかも知れません。
ゲームの私ではなく、いまいる私の発動条件。
何か思いを込めて、趣味の手芸をする事。
多分これです。
試しに起動させてみたら、結界魔法が使える魔道具になってますね。 この刺繍ハンカチ。
どっかの貴族に知られたら、私が危険ですね。
ちょっと家族と相談しないと。
パパーー? ママーー? いるーーー?
……あ、私は今10歳ですから。
こう言わないと、両親が悲しむので。
恥ずかしい~とか、からかわないで下さいよ、放っといて下さいよ。 お願いですから。
乙女ゲームの主人公に転生したヒロインちゃん、野望を達成するために色々練習(むしろ本番じゃないの?)していたら、ヤベー展開へ。
原因は余計なシミュレーション系乙女ゲームのシステムを、搭載してしまった親友枠の子の所為。
具体的に言えば、爆発すると悪い噂が飛び回る、あのシステムが悪い。
……ゲフンゲフン(仕切り直しの咳払い)
夢の逆ハーを目指そうとした所、加減を間違えて暴走し、攻略対象の性格を歪めて妨害される。
そもそも主人公のヒロインを張るには歪みきった性格をしている転生者なので、歪みの発生源とも言えます。
つまる所、自業自得でもある。
そしてそれを遠くから知ってしまった、親友枠の女性。
結末を知っても対岸の火事、所詮他人事。
冷たい? いえいえ。 そもそも知らない相手ですもの。
ゲームで知ったヒロインとは、中身が違うと分かってる。
だから別人ですわ。 直接知り合った人じゃなければ、ニュースで死亡事故を見たのと変わらない。
人間だもの。 そんなのにまで心を砕いていたら、すりきれて精神がおかしくなってしまいますって。
あ。
が口癖のキャラクター。
大まかな話の流れを作って、あとは勢いで書いてたら「あ」が多いな。
そう思っていたけど、そこで天啓。
それが口癖のキャラで良くね?
という訳でゲームでの親友属性は排され、ちょくちょく栗みたいな口をする、ただのご令嬢様になりましたとさ。