同行営業
「嫌だね。なんでわざわざ越谷の奥地まで外交しないといけないんだ。」
川島は奥村に平本への同行営業を依頼したところ、こう、断られた。
浦和から平本の自宅まで車で1時間程である。
仮に商談時間を1時間とすると、奥村は約半日拘束されることになる。
大きな募集物のノルマがあるなか、奥村が半日支店を空けることは難しい事であった。
(確かに支店長を同行営業へ連れ出すには相応の理由が必要だな…)
川島はタバコに火をつけながら、平本とのこれまでの商談を思い出していた。
(平本さんの情報をまとめてみよう。平本さんは2代続く越谷北部の大地主。これだけでは支店長を引っ張ってくる理由にはならない。となると、一体どうすれば良いのだろうか…)
その時、喫煙所への扉が開き、松本が姿をあらわした。
「おう、川島ぁ。調子はどうだ?」
松本はにこにこしながら川島に尋ねた。
「ハードモバイルの債券で死んでますよ。何とか支店の平均並みに予約は取れましたが、大手のお客様への支店長同行営業が、奥村支店長に断られて…それで少しへこんでます。」
川島はこう返した。
「さっきのやり取りは聞いてたよ。ただ、大地主だからって支店長は動かんよなぁ。」
松本はタバコに火をつけながら話始めた。
「もし、仮に俺なら同業他社で株やってて、そこからお金を引っ張ってこれるかもって、支店長に話してみるかな。具体的にどこで株持ってて、どんな取引してるのかってのが、分かっていれば、支店長も商談先で話し易いんじゃないか?」
松本は話した。
「なるほどですね…その手がありましたか。確かにそれなら支店長を連れて行く名目になりますしね。それに、私は支店長が商談先で話し易い、という視点はありませんでした。
ありがとうございます。」
川島はこれまでに無かった視点をくれた松本に感謝を述べ、喫煙所を後にした。
(平本さんの他社取引については掴んでる。確か、青澤証券、セント証券、谷内証券の中堅、地域密着型証券3社だったな。でも、それぞれの金額までは分からない。どうしようか…)
川島の課題が一つ消え、一つ追加された。